『ILLUSION』









「進藤……お茶…」

「……うん」


縁側から庭を眺める進藤に声を掛けるが、気のない返事しか返ってこない。


「………ここに置いておくぞ」


振り返りもしない相手の少し離れた所に置いた。


「……サンキュ」


これまた気のない返事に溜息をつく。
最近の進藤は、ボクの家に来るといつもこうだ。
縁側に座って庭を眺める。


庭にある木蓮の木を、じっと眺めている。
濃い紫色の花が咲き始めてからだ。
時間が許す限り、ここへ来ている気がするのは多分、間違いじゃない。



ただ、ただ眺めている。



何かを話すわけでもない、だた座っている。
ここで打つ約束もちゃんと守っているので、これといって何も云えない。
対局も検討も…いつも通りの進藤で、文句のつけようもないし…。





ここ何年か…進藤はよくこんな風に一人の世界へ入る。
季節の花だったり…凍えるような月夜だったり…暑さを象徴する蝉の声だったり…。
ふとした日常の中でも…何かを静かに思い出している。

懐かしさや切なさ、慈しむような表情を見せる時は、ボクはその世界へ入れない。

何か…思い出すのも辛そうな表情をしていた頃と比べると、格別に落ち着いているように見える。
キミが追っている幻影は……きっと……。


進藤は…自分の中で何かを整理している。
そう感じているのは…気のせいではないと思う…。

進藤だけの…ボクが関わる事の出来ない世界に…戸惑いがないと云えば嘘になる。
踏み込めない世界が歯痒いほどに……


自分がこんなに心が狭いとは…知らなかった。











「………あ」


小さな声と共に、紫の花びらが静かに落ちた。


近所では、鯉のぼりも泳いでいる。
もう…木蓮も終わりの季節だ。


「もう…終わりだな」


思った事をそのまま云われて、一瞬、鼓動が跳ねる。


「……もうすぐ……なんだな」


独り言は返事を求めていない。


先ほど淹れたお茶が冷めた事にも気が付かない。
それほどの時間……自分を見ていない相手に腹が立つ。


そして、それを黙っているしか出来ない自分にも。


その場に居たくなくて立ち上がると、いきなり腕を捕まれた。
驚いて振り返った先の視線とぶつかる。



昔は感情がそのまま溢れるような…判りやすい瞳が好きだったのに…
いつからこんなに…色んな事を湛えるようになったのか。

言葉を発しようと動く唇を…そこから発せられる言葉を聞きたくないと思った。


こんな時、必ず『ごめん』と…





「………塔矢……」


捕まれた手を反対に引き、思わず進藤の唇を塞いでいた。
一瞬だけど…驚いて見開く瞳に満足する。
言葉ごと飲み込んでやる。

反対に噛み付くようにキスをされて簡単に息が上がってしまう。


「何? どうしたの?」


甘く耳元で囁く相手を遠ざける。


「どうもしない、打つぞ」

「え? そんだけ?」

「他に何がある?」

「あー…うー…いえ、ないです。打ちたいです」


離れ間際、もう一度、軽くキスをする。
触れるだけのキスを。


「……お前、なんか怒ってる?」

「何が?」


ボクはそんなに心が広くないから。
いつまでも思い出の中に逃がさない。
ボクと居る時は…ボクだけのモノでいろ。


言葉に出来ない想いを込めて、相手を見やる。
悔しいから…余裕の笑みを浮かべて。

それに…進藤が弱いのを知っているから…。


「……えっと……泊まってっていい?」


もう…何度も身体を重ねてるのに、強く出れないのは?

さっき飲み込んだ『ごめん』は、何に対して?


「塔矢?」


少しの意地悪を…許して欲しいと思うのは我侭だろうか?


「キミが勝てたらね」

「っ後悔すんなよ」


碁盤に向かう姿に、ボク達の時間が戻ってきた。


2006.04.19 高田あさぎ様

このお話はヒカアキサイト『embrace』の高田あさぎ様からまったりclubサイト2周年のお祝いに、いただきました。
ううう・・・・嬉しいです。いつもありがとうございます。
早いなあ・・・・もうサイトを立ち上げて2年経ったんですね。あっという間の2年でした。

さて・・・・・・・
「進藤・・・・お茶・・・」「・・・・・うん」「・・・・ここに置いておくぞ」「サンキュ」
うわ!夫婦な会話だなぁ・・・・・・。
しかし、大好きなアキラと共にいながら心は若干ここにあらず・・・といった風情なヒカル。
そしてそんなヒカルが誰かの幻影を追っていると言う事を感じながら(そしてその幻影が誰なのか薄々感じながら)それを黙っているしかない自分と、心を彷徨わせているヒカルに腹を立てるアキラ。
「ボクと居るときは・・・・・・ボクだけのモノでいろ」
イヤン♪アキラさん。
進藤が塔矢に対して独占欲をむき出しにするのはよく見かける光景でありますが(そうなのかっ?!)その反対というのもいいですなあ・・・・えへへ。
あさぎさんが、佐為がらみのネタを書かれるのは非常に珍しいことだと思うんですが、佐為がからんでくるとどうしても進藤が女々しくなってしまいがちだったり、と難しい中とても上手く書かれていると思いました。
このサイトを立ち上げた時、記念の《TOP絵第一弾》は佐為ちゃんだったんです。
ですのでこういった佐為がらみのお話をあさぎさんからいただき、少し衿を直し気持ちを引き締め初心に帰らねばな!と思いました。
しかも、私が好きな木蓮も出てきてとっても嬉しかったです。

いつもあさぎさんには公私共にお世話になっています。
なかなかご恩返しが出来ないヘタレ管理人ですが、どうかこれからもよろしくお願い致します。
当サイト2周年にあたり、この様な素敵なお話をありがとうございました。

2006年5月1日