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「塔矢」
進藤のボクを呼ぶ声が好きだ。
それは、少し怒った声だったり、拗ねた声だったり、嬉しそうな声だったり。
その声と一緒に見せてくれる表情がたまらなく好きだ。
そっと触れてくる指先。
交わる吐息。
逸る鼓動。
すべてが大切で失くせない、ボクが手に入れたもの。
『one's own way』
「―――――――とうや?」
「っ」
ふと名前を呼ばれて上げた視線の先に、進藤の眼差しとぶつかった。
覗き込むような、息が触れそうな距離に戸惑う。
いつものように棋院での手合いの後、なんとなく一緒に帰ってきて、そのまま進藤の部屋へと来てしまった。
今日の棋譜を検討する訳でもなく、一局打つわけでもなく、ただ進藤の喋っている話を聞いていただけだ。
ボクは進藤の部屋で、先日の出張での話を聞いていた。いや、聞かされていた。
ボク以外の誰かと一緒の話など聞いてても面白くない。
だから、適当に聞き流していたのだ。関心がないとは云えないけど、気にしだすときりが無い。
内容は聞いていないが、声はなんとなく追い掛けていたら、上の空なボクに進藤は訝しんだ。
覗き込むようにされて、はっきり云ってボクは焦った。
その瞳は、何もかも判っているようで…。
……面白くないと思っているのを見透かされてるようで。
「―――――塔矢」
そして呼ぶのだ。判ってると云いたげな瞳で。
「なんだ」
悔しいけど、平静を装って答える。
だけど進藤は探る瞳をやめなかった。
「オレのコト、好きだって云いたくなった?」
「……ならない」
ムッとして言い返す。
ボクは言葉にするのが苦手だ。だからといって、言葉にするのも大切だって判ってはいるのだ。
進藤から『好きだ』と告白され、自分の気持ちを自覚したが…云った事はなかった。
ボクにとっては怒涛のような変化の中で、進藤があまりにも落ち着いている感じがして、悔しいのと自覚してしまうと恥ずかしくて、どうにもならない気持ちから云えなくなった。
なにより、「好き?」と聞かれると云えなくなってしまう。
改めて聞かれると云えない、嬉しそうに確信を持って聞いてくる進藤に悔しさから意地になってしまう。
云うものかって。
ボク達は。
キスもする。
肌も重ねる。
なのに判らないのかと…意地を張ってしまう。
それさえも判ってる進藤の瞳が、表情が気に喰わない。
「ふーん……ま、いっか」
いつもだったら、拗ねたりと色々とねだってくるのに、今回はあっさりと引き下がった。
一瞬、いつもと違う反応に気を取られてしまって、抵抗も忘れて進藤のキスを受け入れていた。
覗き込むような体勢のまま、顔を寄せてきたのをそのまま見つめてるのが精一杯だったのだ。
「…んっ」
深くまで受け入れるつもりは無かったのに、唇の上で進藤が小さく『好きだ』と動いたのが判り、思わず微かに口を開いてしまった。
その隙を進藤が見逃すはずもなく、進入してきた舌に上顎を舐められ身体が震えた。
進藤が見つけたボクの弱いところ。
これも悔しい。
最近、進藤はボクの反応を楽しむような時がある。
受け止めきれずに流されそうになるボクを。
余裕が無いボクを…。
そういう反応を引き出そうとしているのが判る。
進藤は少し体温が上昇したボクの体を抱き込んでから、そっと離す。
その離れていく体温に寂しさを感じるのも…少し悔しい。
「お前、口は素直じゃないけど他は素直だもんな」
「え?」
「云わなくても伝わってくるから、目から、身体から、……吐息から」
「…っ」
余裕な進藤に悔しさが増す。
ボクには余裕なんて与えないくせに。
そんな悔しさに睨み付けても、効果なんてない。
案の定、ボクの視線を受け止めた進藤は、艶やかに微笑んだ。
子供っぽい表情は完全に影を潜め、『男』としての顔を見せる。
「それに、今はまだ、オレの『好き』でお前をいっぱいにする方が忙しいしな」
あぁ、適わない。
そう思った。
まだ、何もかも進藤の方が大きい。
ボクは自分の感情を追うだけで精一杯なのに。
悔しさの反面、この男がボクのものなのかと思うと嬉しくなった。
意地は必要ないのかもしれない。
そう思うと、ボクはどうしようもなく目の前のモノが欲しくなる。
目の前の男を抱き寄せると、唇の上で、小さく、小さく囁いた。
『早く、キミでいっぱいにしてみせろ』
そして、キミは大人びた表情でボクの視線を奪う。
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2005.01.11 高田あさぎ
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