「お前、反則」

  「………何がだ」




  鬱陶しい梅雨がやっと明けて夏がやってきた。


  焼け付くような太陽。
  肌が痛くなりそうな日差し。
  白い波を立てて打ち寄せる海。
 



  「塔矢って…絶対、海より山が似合うと思ってたんだけどな」


  別に海じゃダメって思ってたわけじゃないけど…
  いかにも『夏』を象徴するような…夏の太陽って似合わないと思ってた。
  どっちかってと、避暑とか…涼しげなのが似合うかなと。

  もちろん、そっちも似合うんだろうけど…夏の太陽も似合ってた。






  囲碁イベントの仕事で来ていたオレ達は、終わった後も休みを取って残っていた。
  ホテルから直接降りれるプライベートビーチ。
  朝早いのと、夏休み前という事で今はオレ達の貸しきり状態だった。


  砂浜から波打ち際へと歩いていく塔矢。

  朝日の中で凄く綺麗だ。


  履いていた靴を脱ぐと、海の中へと躊躇いなく入っていく。




  頼むから…そんなに無防備にならないで欲しい。


  「キミは昨日から溜息ばかりだな」


  塔矢の無常な言葉に、思わず恨みがましい視線を向けてしまう。


  「当たり前じゃん、誰かさんは何にもさせてくんないし」

  「当然だろう」

  「……最愛の人と同じ部屋で…指一本触れられないとわ…」

  「少しでも許すとキミは止まらないからな」

  「それこそ当たり前じゃん」


  少しでも触れたら…止まるわけない。
  大切で…大好きな最愛の恋人が目の前にいて我慢できるかって。



 朝日が水面に輝いて目が開けられない。
 
 見たい姿がそこにあるのに。
 でも、目を瞑ってても塔矢の姿が見える気がする。

 近くにいる…。

 触れることが出来る。

 それがどんなに嬉しくて幸せか…塔矢に触れて初めて知った。




  「進藤」

  「なに」


 塔矢のことばかり考えてるのが妙に恥ずかしくて…
 少し不貞腐れた気のない返事しか出て来ない。






  「――――進藤」




  塔矢の声音に何かが含まれる。
  それは…オレだけが知っている声。

  オレだけに向けられる思い。



  塔矢の顔は逆光気味で、よく見えない。



  でも、オレはその顔を知ってる。


  自然と足が前に出て…靴やズボンが濡れるのも構わずに近付く。


  目の前の…オレに向けられた視線は熱を帯びていた。


  塔矢の手がオレに触れたと思ったら、目の前が一瞬何も見えなくなる。


  触れる唇。

  濡れた感触。

  交わされる吐息。


  風に揺れて触れる髪までオレを熱くさせる。



 塔矢からの初めてのキス。


  恋人となってまだ日の浅いオレは、初めて塔矢にキスされた。
  いつだって仕掛けるのはオレからだったから。

  初めての恋人からのキスに、オレは情けなくも突っ立っているだけだった。


  離れていく速度で瞼を開けると、塔矢の悪戯っぽい瞳とぶつかる。


  初めて見る表情。
  少し責めてる感じのする眼差し。


  いつもと違って照れも感じさせない塔矢。


  「……………………」

  「……言葉も出ないのか?」

  「………ぅわぁ……メチャ恥ずかしい」


  いつもしたくてキスしてるオレ。
  されるのがこんなに恥ずかしいとは知らなかった。


  「進藤………」

  「………はい」


  言葉が出て来ない。

  オレの戸惑った様子に満足した風な塔矢。


  悔しいけど…完璧に出遅れた。



  「……我慢しすぎだ、莫迦」


  やっと手が動き、目の前の身体を抱きしめる。

  探るように抱き寄せた身体は熱くて…どうにかなりそうだ。
  擦り寄るように首筋に顔を埋めた。

  こんな外で…こんな風に抱き寄せたら…いつもだったら絶対に殴られる。 
  そんな理性も働かないほど塔矢も思ってくれてるんだ。


  「塔矢……もう一日、泊まってこ」

  「…嫌だよ、キミ、しつこいから」

  「っ誰のせいだよっ」

  いつもいつも…オレの理性を飛ばすのは塔矢しかいないのに。

  「しつこいオレは嫌かよ」

  「まさか、そんな進藤もボクのモノだ」

  塔矢はそう云うと、またキスをくれた。
  軽く触れるだけのキス。


  しばらくお互いを伺うように視線を絡ませてたけど、自然とどちらともなく笑みがこぼれる。


  そのまま朝の海岸を散歩しようと手を繋いで行こうとしたら、手は簡単に離れていった。

  久しぶりにお互いに触れたからか…塔矢には理性が戻りつつあるようだった。



                                           2005.08.7 高田あさぎ


暑い中でも凛として涼しげな笑みのアキラさんのイラストと共に、こんな素敵SSが!
「embrace」の高田あさぎ様からいただきました!
確かに進藤が言ってるようにアキラさんと言えば、海よりは「山」と言ったイメージですねー。
浜辺でわいわいビーチバレー
やらスイカ割り〜・・・と言うよりゃあ軽井沢あたりの別荘で
ベンチにひとり腰掛け読書・・・・なんて感じでしょうか?
おあずけ食らってる進藤が痛々しいんですが(笑)それもこのアキラさんにかかっては止む無し!
といったところなんでしょうね。
まだ恋人になって日が浅い、ということですがふたりのかもし出すまったりとした安定感にとても好感が持てました。
誰も居ない早朝のホテルのプライベートビーチでちゅう♪しかもアキラさんから仕掛けたとあっちゃあ進藤の喜び
ようはただごとではなかった事でしょう!
(読んでて「良かったねえ、進藤」と思わずハンカチで目頭を押さえてしまったり・・・・)←進藤ばか。

いつもあぎさんには色々とお世話になっております。
またこれからもイベント等、碁一緒させていただくと思いますが、どうかよろしくお願い致します。
そして今度は『進藤のイラスト』もどうかひとつよろしくお願い致します〜〜!(激しく希望☆)
素敵なSS&イラストをありがとうございました。

                                                      2005年8月11日