―――近衛か――――



長かった夏が過ぎて、ようやく秋めいてきた九月(旧暦八月)
ひとり庭に佇んでいた賀茂は近づく近衛の気配を感じていた。

冬の終わりから地方の反乱を収める為、征伐軍に召し上げられ
遠く旅立った近衛がやっとその任を終え、この京に戻ってきたのは昨日のことだ。
そして今日は帝の御前報告に向かったはずだった。


『賀ぁ〜〜茂ぉ〜〜〜!おお――い!賀茂ぉ!』


ああ・・・・・・何でそんなに大きな声を出すんだ。
門の外から僕を呼ぶな!恥ずかしい。
君は一体、歳はいくつだ?!
まるでそこらで大声を上げて虫を追いかけたりしている童と同じではないか。


『あっっ、賀茂!わざわざオレんこと待っててくれたんだ―?』
「誰が!ただ庭の木の様子を見に出ただけだ」
『ま〜たぁ〜〜もう、淋しかったって言えよぉ〜、素直じゃねえんだから!』


大股でずんずん歩いてきた彼に抱きすくめられる。







「ちょっ・・・・っ・・・・こ・・・のえっ!」



性急に唇を合わせてくる彼。
まだその行為に慣れていない僕はどうしても恥ずかしさが先に立ってしまって
つい顔を逸らしてしまう。
それにいくら庭とは言え、外は外だ。
いつ誰がやって来るとも知れない。
しかし、近衛に顔を手で挟まれしっかりと唇を塞がれる。
もがくと更にきつく抱き締められた。

貪るように僕を求めてくる。
あまりの激しさに息を付く暇もなく、ただ彼の求めに応えるのに必死だった。



『賀茂、逢いたかった!』
「うん・・・・・・」
『はぁ〜〜〜〜〜!もうオレ限界!』
「近衛?」
『お前と離れて半年だぜ。お前の顔は見れないわ、
声は聞けないわ触れないわ・・・・オレ死ぬかと思った』
「ばか・・・・」

そっと近衛の肩口に顔を寄せる。
戦は激しかったと聞く。
茶化してはいるが、死者もかなり出た厳しいものであった。

―――よくぞ無事で―――

そう思うと賀茂の胸には、切なく迫るものがあった。
戦場での近衛の安否が気になり眠れない夜をいくつも重ね
時には涙で枕を濡らすこともあった。

「君がこうやって生きて・・・・無事に帰ってきてくれて嬉しい」


自ら己の首に腕を回し、唇を重ねてきた賀茂に近衛の身体は一気に熱を帯びる。


『賀茂・・・・抱きたい 今すぐ 我慢出来ないよ、オレ・・・』
「近衛!ぼくは・・・・」
『オレ、もうずっと我慢してた。お前は?オレとそうなるのはイヤ?怖い?』


真剣な近衛の顔が目の前にある。
そんな顔をさせているのは自分なのだと思うと切なくもあり、また嬉しくもある。
お互いの想いを告げあったのは、彼が戦地に赴く前のこと。

唇を触れ合う程度のことはしていた。
けれどその先にどうしても進むことが出来なかったのは賀茂で。
近衛を待たせてしまったという自覚は十分にある。

そのような経緯があったにしろ無かったにしろ、恋人からこんな熱い瞳で求められて、拒める人がいるだろうか?


「近衛、奥へ…」
『え?いいのか?』
「君の怪我の手当てをしてからだ」
『な、何でわか…』
「君からわずかに血の匂いがする」
『手当てはしてもらったよ』
「応急処置だろう?ちゃんと傷口を消毒しなければダメだ!どんな傷でも手当てを怠れば後で取り返しのつかない事になることもある。
君に何かがあったりしたら・・・・僕は・・・・」
『賀茂・・・・・・』


薬草を調合し湯を沸かした。






「・・・・・・・・・・っっ!・・・・・」








衣をはだけさせた近衛の身体には、無数の傷が刻み込まれており
それは戦がどれほど激しかったのかを如実に物語っていた。



賀茂はしばし声も出なかった。



『賀茂?どした?』








「僕が傍にいればここまでひどくはさせなかったのに…」

賀茂の頬に一筋の涙が流れた。

『賀茂・・・・・でもこうやって無事オマエの元に帰ってこれたんだし・・・・な』

「もう・・・・・・もうどこへも行かないでくれ」

『賀茂・・・・』

「ずっとボクの傍にっ・・・・」

『賀茂っっ!』





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御簾をおろしても、どうしてもこの明るさが気になる。
そして衣擦れの音が、彼の荒い息も・・・・そして自分の乱れた呼吸さえもが恥ずかしい。

「賀茂」

彼の唇が首筋を這い、すでに開かれた合わせから手を忍び込ませて胸の頂を探られる。


くすぐったい。


まだ誰にも肌を許したことの無いその身体は、わずかな刺激にも敏感に反応し
どうにも身の置き所がなくなるようなむず痒い感覚にとらわれ、つい身じろぎしてしまう。

――――近衛にはこの身体はどんな風に映っているのだろうか?―――――

女性と違って柔らかなふくらみがあるわけでもなく、ふくよかさのかけらもない、ただ硬いだけの自分の身体。
そう思うと、つい身体を近衛から隠そうと動いてしまう。
それを察したのか、近衛の手の動きは更に優しいものになり、賀茂の耳元に囁きを落とす。


「賀茂・・・・・・・好きだよ。お前の心も身体も全部」

その言葉に賀茂の熱が上がった。
近衛の指が自分の肌の上を這い回る・・・・・。
―――熱い・・・・・・・・
ただくすぐったいだけだった感覚の中に、甘いしびれが忍び込んだ。
自分の身体が変わる・・・・・・・・近衛の手で。

近衛の指が・・・・口唇が、賀茂の白磁の肌の上を滑る度に埋火の様な熱が賀茂の中に生まれて
その熱が集まり身体の奥底に差し込むような感覚が広がる。
まるで自分の身体ではないような感覚。
それでいて、一時もじっとしてはいられない、急く様な衝動が身体の奥から次々と溢れ出し
賀茂はその身を捩じらせ、何かを告げたいと思うのだが口から漏れるのは
ただ喘ぐ吐息と切れ切れの言葉だけだった。



「あ・・・・・・あ・・・っ・・・・んんっ・・・・・・っ近・・衛・・・・」


『賀茂・・・・・・賀茂・・・・』


彼からの愛撫を一方的に受けるだけで、自分はただただ喘ぎ
近衛の身体にしがみ付くのが精一杯だった。

賀茂の身体はもう既にしっかりと反応している。
賀茂の下腹に感じる近衛もまた、硬く勃ち上がっており
賀茂のそれと触れ合っては腰の砕けそうな快感をふたりにもたらしていた。
すでに首筋から胸元、そして足の指先にまで快感の波に覆われて
後はふたり、頂点を目指す為に繋がるだけ―――。



近衛は賀茂の身体をそれこそ宝物でも扱うかの様に、
丁寧にゆっくり時間をかけて開いていった。

そこを使うとは分かってはいたが、実際こうやってありえない処に指を挿れられ
自分の身体の中を近衛が探っているのかと思うと、賀茂はいたたまれない気持ちになる。

『賀茂、痛い?』

違和感はあるものの、痛みは感じられなかった。
たださすがに言葉にして返すことが出来なく、かすかに首を横に振って答える。

近衛は賀茂が恥ずかしさで顔を覆っている腕をどかし、賀茂の唇を塞いだ。
口を開かされ舌を絡め取られて、息をつく暇もない。
喘ぐその吐息さえも近衛に絡め取られてしまっているようだった。
その間も近衛の指は忙しなく賀茂の中を探り続けた。


「・・・っっ!」


近衛の指がある場所を探り当てた時、賀茂の腰が跳ね上がり首筋が仰け反る。
少し萎えかけていた賀茂のそれがまたふたたび硬さを取り戻していた。


「挿ってもいい・・・?」


賀茂の目の前には雄の顔をした近衛がいた。


「うん・・・・」

答え終わるか終わらないかのうちに、近衛が賀茂の中にゆっくりと挿り込んだ。

深く 深く唇を合わせ
彼を身体の奥深くまで受け入れる

「蕩けそう・・・賀茂・・・・」

ゆっくりと彼が身体を揺らし始める。



ポタリ・・・・と汗が賀茂の顔に落ちる。
近衛の身体に無数についた小さな傷をひとつひとつ、手でなぞった。


もう 何も要らない
自分ですら
ただ彼だけが居てくれれば
それでいい・・・・・・




彼の動きが激しさを増して終わりに近づいているのがわかる。

「あっ・・あああ―――っっ・・・・っ・・・」

『賀茂っ!・・・っ』

その瞬間

全ての音が消えて
僕は彼だけで満たされた







『ススキがさあ・・・・門のとこ刺さってた。お月見、ひとりでやったん?』
「うん・・・・・宮中では清涼殿の東庭で月見の宴が催されたんだけど、僕は物忌みを口実に断った。」
『どして?』
「君が居ない宮中での宴なんてつまらない」
『は!・・・・嬉しい・・・と喜んでもいいんだろうか?この場合?でも団子、食いたかったな――』
「ふふ・・・君は食い気ばかりだな」
『だって、賀茂が作ってくれるお月見団子、すっげえ美味いんだもん。
そんでさ・・・・・オレってこのお月見の頃に生まれたらしいんだよね。母君がいつも言ってた。
食意地が張ってる貴方らしい・・・・って』
「そうか・・・・・こんないい季節に君は生まれてきたんだね?それじゃあ、今夜は月見酒でも用意しようか?」
『うわっ!ホント?嬉しいなあ・・・・・・それと団子もな!オレ、また新しいススキ採りに行って来るよ♪』
「君は・・・・・元気だな・・・・・」


彼の腕の中は、とても暖かくて気持がよくて・・なんだか眠くなってきた。


「少し眠ってもいいだろうか?」
『うん…何刻ころ起こせばいい?』
「う…ん…そうだ・・ね…月が……」


『賀茂? 寝ちゃったの?賀茂………』




『ススキがさあ・・・・門のとこ刺さってた』
*お月見に添えたススキは、お月見が終わった後に、すぐに捨てたりしない風習があります。
お月見が終わった後は、ススキを庭に差したり、小屋、門、水田に差したりします。
ススキには、魔よけになるという俗信があるからだそうです。(受け売り)