…うや……塔矢……






近・・・・衛?


優しい手が降りてきてゆっくりと僕に触れていく・・・・・・


温かくて大きな手が僕の頬をなで、髪に指を差し入れ優しく梳くいている。
それがとても気持ちよくって、目が開けられずまた眠りの中に引き込まれそうになる。


だんだん意識が浮上してきた。
随分寝ていたような気がする。
ほんの一刻くらいのつもりだったのだが、もしかしたら寝過ごしてしまったんだろうか?
そんなことを考えながら気持ちの良い眠りからからゆっくり覚醒しつつも、眠りに入る前の事を反芻していた。

戦地から帰った近衛と、初めて結ばれた。
そして僕はそのまま眠ってしまったんだな。
そうだ、近衛に月見団子を作るって言ったんだった
早く起きて作ってあげよう。









『塔矢……今日は出掛けるんだろ?そろそろ起きた方が…』















優しく髪を撫でてくれていた彼の琥珀色の大きな瞳が僕を覗き込む。


「ん…近…衛…すまない。少し寝すぎてしまったのか?僕は。」
『え?何?オマエ今、なんつった?』
「あれ?…・・・・・・あ・・・進藤、おはよう」
『おはよ…っ。・・・って、おはようじゃなくってさぁ誰だよ?!コノエって!』



えっと・・・・まだアタマがハッキリしない。ごちゃごちゃする。
変だな。

―――夢?なんだろうか?
今は平成、うんそうだ。でもさっきまでのあれは・・・多分平安時代だ。
まだ頭の中に鮮明に残っている出来事のアレコレを反芻する。
本当にあれは夢だったんだろうか?それにしては何だか妙に具体的だったというか、懐かしいカンジがしたというか・・・
それにしても何であんな事まで・・・僕は何と言う夢を―――
恥ずかしいと言うか嬉しいと言うか、それでいて懐かしいような・・・・


『なんだよ塔矢ぁ〜何、思い出し笑いしてんだよぅ〜。
なあなあ!さっきお前、コノエ・・って言ったろ?なに?人の名前?誰だよ誰なんだよ―」

頭上でわめいている進藤の首の後ろに腕を回し、思い切り引き寄せ唇をふさいで彼を黙らせた。
最初は大きな目を見開いて驚いていた彼だったけど、スッっと目を細め乗り気になってしまいそうだったので、さっさと彼の身体を押しやる。

『ちぇ、ここまで?ま、い―や。んで、誰?さっきのコノエとか言うのは?!』
「君には・・・・そうだな、いつか話すかも知れない」
『はぁ?何それ―?どっかで聞いた様なセリフ言ってんじゃねえよぉ〜』

眉を下げて泣き言を言っているキミ。それじゃ折角の男前が台無しだよ、進藤。
でもそんな顔を見るのも好きだったりするので、しばらくは黙っておこうかな。

『ああ〜〜もう。ところでお前、今日は早く帰って来てくれんだよな?』
「もちろんだよ。今日は君の誕生日なんだから、僕が腕によりをかけて美味しい料理を作るよ。」
『ああ〜〜〜覚えててくれたん?オレの誕生日』
「当たり前じゃないか?恋人の誕生日をこの僕が忘れるとでも?進藤。」
( 一ヶ月も前から本人にカウントダウンされていれば、誰が忘れるというんだ)
『そうだよな・・・・うん・・(ぐすっ)嬉しいなあ・・・・あ、ケーキもある?』
「頼んであるよ、ホールで。”ヒカル君、お誕生日おめでとう”と文字入れも頼んでおいたから。ロウソク付きで」
『ぎゃ〜〜〜』
「嫌だったか?」
『や!チョ―嬉しい!』
「そうか、それは良かった」
『それよかお前、時間大丈夫か?朝メシ出来てるぜ。味噌汁に玉子焼きに、魚も焼けてるぞ〜♪』
「ありがとう、支度するよ」
『んじゃコーヒーの用意しとくな』

そう言うと彼はいそいそと、部屋を出て行った。

実にマメなオトコだ。
彼と暮らし始めてからもう1年になる。
最初は料理なんてどちらも最低限の事くらいしか出来なかった。
それでも食べさせる相手がいると思うと、自然と作ろうと言う意欲が湧いて来るのというのは不思議なものだ。
何とかふたりともそこそこの食事くらいは作れるようにはなったし。
ある時、外で食べた料理を彼が見よう見まねで作ってくれたのを僕が「美味しい!」と手放しで褒めたことで彼に料理熱が点ってしまったらしく、それからは時間が許す限り食事の支度は彼がやるようになってしまった。
その上進藤は興味を持ったものはトコトン追求するタイプだったから、料理の腕もこの1年で随分と上がった。

『料理上手に尽くし上手。そんでもって床上手の三拍子揃って、何ってオレってお得物件なんだろ!』
と、いつだか彼がそう言ってたが、本当に。
僕は実にいい伴侶を得てしまったのだと改めて思うよ、進藤。



カーテンがゆらゆらと揺れる。
部屋に入ってくる風は秋の匂いがした。



―――君待つと わが恋ひ居れば 我が宿の 簾動かし秋の風吹く―――




夢の中で”賀茂”と呼ばれていた僕が口ずさんでいた。
戦地へと赴き戻らない彼を想って。
御簾が動けば彼が帰って来たのかと外に出たり、風に散る桜を見ては彼の身を案じ、空を舞う燕を見ては、お前は彼の地から飛んで来たのかと問い掛けていた・・・。
あの時の賀茂の切ない想いは、目が覚めた今でも僕の胸に重くのしかかってくるくらいに辛く悲しいものだった。
今はこうやってお互い傍に居るのが当たり前になっているけれど、それまでの道のりは楽しい思い出ばかりじゃない。
そんな、進藤に片想いをしていたあの頃の自分と賀茂がとてもシンクロするのだ。
でも良かった・・・・・。たとえ夢の中の出来事であれ二人がうまくいって。

昨夜の甘いひとときの名残でけだるさが残る身体を返し、枕を抱きしめる。
今日という日にああいう幸せな夢を見たということが僕は嬉しかった。


『塔矢ぁ〜〜っ、寝ちゃってないか〜?』
「大丈夫、起きてるよ」

今日は自分の誕生日だと言うのに、朝から甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる彼がとても愛しい。
もう見た夢の細かい所などは、記憶から薄れ始めていたけど、彼を失いたくないという賀茂の強烈な願いと慈しみの想いにしばらくは心を縛られそうだ。


それまでは前世とか生まれかわりとかそんな事を信じてはいなかったけれど、でも。
もしも多分、僕が次の生を受けた時も傍らにはきっと彼が居てくれるんじゃないかと、そんな気さえしてきたのだった。







『あのさ・・・今朝オマエ起こしたじゃん。そん時オマエぼーっとしながらオレに向かって微笑んだだろ?』

「そうだったか?」



今日の仕事は昼過ぎには終わり、帰宅して進藤を背中にまとわりつかせながら彼の好物を作った。
進藤はそれらを勢い良く、どれもこれも美味しい美味しいと言いながら次々と腹の中に納めて行った。それは見ていて嫌味の無い気持ちのいい食べっぷりで、僕も釣られてついつい箸が進んでしまう。
彼は料理の作り手としてもなかなかだが、食べ手としては一流だなとつくずく思う。
そして食事も終わり、ケーキを片目に見つつ一息ついているときに、おもむろに彼が語り始めたのだった。


『視線は合ってないんだけど、でもふわ〜って笑って。それがさすんごい綺麗で。
や!オマエが綺麗なのはいつものことなんだけど…
こう何ていうの?・・…好き!ってカンジがめちゃめちゃ伝わって来てさ。』

「僕がそんな顔をしたのか?」
さっぱり記憶にない。

『うん、おれドキッてしちゃったもん。その上誰かの名を呟くしでオレ、
オレさ・・・もしかしてお前、オレ以外に誰か好きな人でも出来てそいつとオレ間違えてんのかな・・・・なんて思って』

話している途中でどんどん声のトーンが下がり、目線はテーブルの上をうろうろと彷徨っている。

「は?!」
いきなり何を言い出すんだ?!

『だってオレ、正直言ってオマエにあんな顔させられるほど好かれてる自信ない・・・・』
そうポツリと言うと、とうとう目線は床を彷徨い始めた。

「ばっ・・・・・・・バカか?キミはっ?!」

『バカだもんオレ。だってここんとこ塔矢ったら妙に優しかったじゃん?いつもだったら”ふざけるなっ!”って怒鳴られるとこを”仕方ないな”とかで済ましてくれたり、昨夜だって”もっかいイイ?”って言ったら”いいよ”って言ってくれた』

「ふぅ・・・だからどうだと?」

『言っても怒らない?』

「怒らない。君がバカなことさえ言わなければ」

『やっぱ怒るんじゃん―』

「既に怒られること前提なんだな?!いいから言ってみろ」

『うう・・・・あのさ、もしかしてオレってお前に捨てられちゃうのかな―なんて思・・・・』

「いい加減にしろっ?!」

『怒った―』

「怒るに決まってるだろ?!一体何を根拠にそんな有り得ないことを思いつくんだ。そんなワケのわからない事を言い出すキミは大バカだ!」

『おれ、塔矢バカだもん。だっていつもお前のことしか考えてないし考えらんないし、余裕だってないしでもういっぱいいっぱいなんだもん。』

だから、いい歳して「もん」とか言うな。
それに最近雑誌に取り上げられるようになったキミが、どれだけ世間から(とりわけ女性たちの)注目を浴びているのか、キミは分かってないのか?
それを傍で僕がどれだけやきもきして見ているか、だなんていうのもキミは全く分かってないんだろうね?

イスから立ち上がりテーブルを回り込んで進藤の前に立つ。
琥珀色の瞳を潤ませてちょっと不安そうに見上げてくる彼。
そんな表情にもひどくそそられる。
そして彼のちょっと長めの髪に指を差し入れゆっくりとキスを落とした。










「キミには言葉で言ってもわからないみたいだから」
『え?』
「身体で分からせるしかないみたいだな」
『ええっ?!』
「来いよ、進藤」
『うんっっ♪』
散歩に出る前の犬の様に、ウキウキと僕の後ろをついてくる進藤。
さっきまでのしょんぼりは一体どこへ行ったのやら・・・・。


折角用意したケーキだったけど、こっちのわからず屋をなんとかする方のが先だ。
ケーキは明日。
朝からでも甘いものOKな彼に熱いコーヒーでも入れてあげて食べてもらうとして
それから聞きたがっていた夢の話でもしよう。






好きだよ 進藤・・・・

うん オレも・・・・・大好きアキラ・・・


ヒカル 誕生日 おめでとう 















その夜、僕がやっと眠りにつけたのは夜も白々と明けた頃だった・・・・・・。


END






―――君待つと わが恋ひ居れば  我が宿の簾動かし 秋の風吹く―――

by 額田王 万葉集


愛しい人はいつ来るのだろうか
貴方が来たのだろうか?と振り返ると
ただ御簾が秋風にむなしく揺れるているだけだった


と、このように切ない恋心を詠んだものでした。
これが現代風だとこんなカンジに。↓
(ネットの海で見かけた新解釈にアレンジを(かなり)加えました)



眠れない夜。
待ちわびた着信音。(進藤・・・なぜかけて来ない)
なのに。

気になる人を待って待って待って待って待ってるとき、(まさか・・・・来ないのか)
すだれが動いた!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!(織田○二?)
あの人かーーーっ?!
と、思ったら風で動いただけでした。(ダンッ☆進藤っ!)←壁に穴、開きました・・・・・
・゚・(ノД`)・゚・チクショー☆風かよーーー!(ふざけるな――っ!(ノ゜Д゜)ノ~┫:・'.::・┻┻:・'.::・)

                                        ↑必殺☆碁盤返し!


                 後書きへ(音楽鳴ります!注意!)