海の向こうに


この話にはオリキャラが約一名出てきます。オリキャラなんて絶対ダメぇ!
    ・・・・な方は大変申し訳ありませんが、そっとこのページを閉じて下さいませ。すみません。


「なあ、進藤。お前知ってっか?」
「あぁ?何?」
「伊角さんから聞いたんだけどさ、塔矢が・・・・・・」






午前の手合いが終わっての昼飯時。
一緒に食ってた和谷がいきなり声を潜めて話しかけて来た。


「はぁぁぁぁっ?!何だそれ?」


急に声を潜めるもんだから何事かと思えば、あの塔矢が女装して市ヶ谷を歩いてたって?
見間違いだよ。
あの塔矢に限ってそんなん有り得ないし。
・・・っつか、前〜に

『なあなあなあ・・・お前、ちょっとコレ、着てみねえ?オレじゃサイズだめだったんだよ。オマエならイケルんじゃね?』

って和谷が持ち込んだコスプレ衣装とやらを塔矢に勧めてみた事があって。
あの反応は凄かった。

「ふざけるな―ッ!キミは一体ボクを何だと・・・・!」

久々に聞いちゃったもん。塔矢、渾身の”ふざけるな”。
わなわな震えてたし。
しかもあの後、塔矢ったら怒っちゃってしばらく口きいてくんなくってさ―、参った。
あーでもちょっと見たかったかも。塔矢のメイドさん姿。


和谷には「そんなん、有るわけねえだろ?!」って即否定したオレだったけど、やっぱり気になった。
なぜって、どうやら目撃者が一人じゃなくって何人もいるって言うからだ。

「塔矢が化粧してスカートをはいてるとしか思えなかった。」

これは目撃者その1の本田さんの談話だ。
とにかく顔のつくりもそうだけど、表情なんかがまんま塔矢だっんだと言う。
塔矢独特のあのちょっとつり目がちで気の強そうな瞳で、口元をキュっと引き締めて
「寄らば切るぞ」みたいな空気をかもしだしていたらしい。
その上おかっぱで背も高く、背筋をシャキっと伸ばしてひたすら前を向いて
肩で風を切って歩いていたんだと言われれば「もしかして?」なんて思ってしまうのも仕方の無いことだろう。
おかっぱって女の子でもあんまいないよな。
いまどきの子って大体髪に色入れちゃってるから、塔矢みたいに黒々とした髪を探すほうが大変だし。

今日は一日そのことを考えて終わっちまった。
今夜、塔矢が地方から帰ってくるからそれとなく聞いてみよ。


「ただいま」
「お疲れ〜。メシは?」
「うん、昼が遅かったからあんまりお腹は空いてないんだ」
「じゃ、軽く何か食うか?おかずあるぜ。温めとくから先に風呂入って来いよ。」
「うん、ありがとう」


今、オレの前で姿勢良く、綺麗な箸使いでメシを食ってる塔矢をオレは頬杖つきながらしみじみと眺めた。
まだ乾き切らない髪が烏の濡れ羽色でそそるよなぁ。
この髪がシーツに散らばった時の美しさったらもう・・・
こいつがメシ食い終わったら、ドライヤーでちゃんと乾かしてやろっと。

ふと箸を止めた塔矢が「何?」って顔してこっちを見た。

「オマエって、いつ見てもキレイだよな―」
「ありがとう」
「棒読みかよ」
「もう今更聞きあきたよ、そのセリフは。」
「ちぇ―。はい、お茶」
「さっきっから何か言いたげだな?キミ。何かあったのか?」
「うう〜〜〜ん。あったと言えばあったし、無かったと言えば無かった」
「進藤?ボクは奥歯に物の挟まったような言い方は好きじゃない。ってキミも知ってるだろ?」
「うん・・・じゃさ、単刀直入に聞くけどさ。」

と、今日、和谷から聞いた話をかいつまんで説明した。

「ボクが女装してたって?いつ?どこで?誰と?!」
「そう矢継ぎ早に聞くなよぅ。棋院の連中の何人かが見てるんだよ。」
「それで?」
「え?」
「キミはそれを信じたんだ?」
「信じるわけないじゃん。だからこそ、ちゃんと否定してやりたいからさ、周りに。ならまずは本人に確認取るのがスジってもんだろ?」
「まあそうだな」
「だろ?」
「じゃあ言うがそれはボクではない」
「ボクではない・・・ってイヤに確信的な言い方だな。もしかして他に心当たりがあるとか?」
「ううん・・・・・あると言えばあるし無いと言えば無い」
「オーマーエー。さっき奥歯に物の挟まったような言い方は好きじゃないって言ったのはどの口だよ」
「この口だよ・・・進藤」




うわ。
襟首ひっ掴まれてチューされちゃった♪
塔矢からチュー♪滅多にないことだぜっ。 
結局、そこからえへへ――になだれ込んじゃって。
朝、目が覚めた時には幸せいっぱい胸いっぱいで昨夜の問いかけの事なんかすっかりと忘れ去っていた。
最後、妙に歯切れの悪かった塔矢の事も。

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あ〜〜、今日もいい天気だなあ。

棋院に頼まれてた書類を届けにオレは棋院への坂道をとろとろと歩いていた。
後ろから人が駈けてくる足音が聞こえた。
ヒールの音だ。オレはちょっと道を開けたげようと脇へ避けた時。

「進藤さんっ」

と、ヒールの足音の主から声を掛けられた。
へ?オレ?
と振りむいたその先には!
塔矢ソックリの女性が頬を赤く染め息を切らして立っていた。




「え、え―と・・・・・どちら様で?」
「塔矢です。塔矢 はるこ」
「とっ・・・塔矢?塔矢アキラの親戚か何か?」

意表を突かれてドギマギしながらも、オレは不躾を承知で彼女を上から下まで何べんもじっくりと見てしまった。
これは・・・・親戚って言うよりもどう見たって双子だろう?
背は・・・・履いてる靴のヒールを差し引いて160・・・7?くらい?

漆黒の黒髪で顎の所で綺麗に切り揃えられたおかっぱ頭。
意思の強そうな眉。
ちょっとつり目がちでアーモンド形の吸い込まれそうな瞳。
シャープな顎のライン。
どれをとっても塔矢アキラそっくりだ!
それに、驚いたのが声だった。
女の子にしてはちょっと低目な、でも良く通る気持ちのいい声。
アイツの声もすんげいイイ。
涼やかで控えめだけれど良く通る声で、オレはアイツの声だったらいつまででも聞いていたい、って位大好きなんだ。
その声に質がすんごく似てる。
塔矢が女だったらきっとこんな声!ってカンジ。

絶句してるオレを前に彼女はクスっと笑った。
「初めまして。駅で見掛けてから話しかけようと思って付いてきたんですけど、貴方歩くのが早くて引き離されてしまったわ。」
「え?オレ?」
と我に返ったところで、俺らの周りにギャラリーが集まり始めているのに気がついて焦る。
みんな、こっちを好奇心満々な目で見てやがる。マズイな、これは。
「えっと・・・さ。オレ、この書類を棋院に届けてくっからちょっと待っててくれる?ここじゃあれだから―、ん―とそうだな―。」

駅前のカフェ・・・・じゃちょっと目立ち過ぎるな。あそこ、ガラス張りだから外から丸見えだ。
どっか分かりやすいところ・・・。
「あ、あのさ。市ヶ谷駅の上にイタリアンレストランがあんだけど、その店に先入っててくれる?」
「棋院に付いて行っちゃダメですか?」
「あ―それはちょっとヤバイかも。」
「やっぱり部外者が入ったら怒られ・・・ますよね。あ、それとも棋士の中に彼女さんでもいらっしゃるとか?」
「別に見学者が入ってもイイんだけどさ、その顔で入ってったらあっという間に人に囲まれっぞ?
貴女はあの塔矢アキラにそっくりだからな。それでなくてもこの間から棋院は貴女の噂話で持ちきりだ。
あ、ちなみにオレ彼女はいないから」(彼氏ならいるけどな)
「あら?そんなに素敵なのに?信じられない!日本の女の子は見る目が無いのね!」
「はぁ?」

なんか顎に手を当ててひとりブツブツと呟き始めた姿は、オレの恋人。塔矢アキラにそっくりだった。

「じゃ、オレ書類届けてくるから。先行ってて。」

駅に向かって歩き始めた彼女を確認してからオレは棋院事務所にダッシュした。

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ランチタイムが終わり、ティータイムが始まったこの店でオレはコーヒー。
彼女はケーキセットを頼んだ。

「で。改めて自己紹介でも。オレは進藤ヒカル。囲碁の棋士やってます。んであなたは?」
「私は、塔矢遥子です。遥かな子と書いてHARUKO。住んでる所はアメリカで弓道の道場のお手伝いをしてます。」
「ア・・・アメリカぁ?日本語、ペラペラじゃん。」
「親の転勤で8歳の時アメリカに行くまではずっと日本で暮らしてたんだもん。それにあっちでも日本のテレビは観れるし、ね。」
「はぁぁ〜〜〜。んで、塔矢って言うからにはあの囲碁棋士の塔矢家の親戚なんだよな?」
「ええ。父はあの塔矢元名人の弟なの。」
「ってことは、塔矢アキラとはいとこ関係・・・・か」

それにしても。
似過ぎてやしないか?だって、どう見たってこの顔。うり二つだ。
オレだって歳の近いいとこはいる。
だけどここまで似てるってのは・・・・・。

「それで、何で日本に?」
「数年前に弓道国際連盟っていうのが出来たんだけど、まだまだアメリカでは弓道を楽しむ人って少なくて。
 それでもやっとアメリカもその連盟に加盟した関係で今回こっちにちょっと滞在することになったの」
「へぇ、弓道かぁ・・・。棋院にはアキラに会いに?」
「それもあるけど、一番の目的は貴方に会うこと♪」
と、サラっと言うとオレに向かってウインクをした。

ドキ☆

一気にオレの顔が赤らんだ気がする。
アキラそっくりの顔でウィンクだなんて、心臓に悪いぜ!
自分の親戚でもあり、また有名人でもある塔矢家の事はネットやあちらのニュースでも知っていたらしい。
そこを調べている時にオレの存在も知ったんだと言う。

「それにしても、囲碁って年配の方がやるものだと思っていたんだけどこちらに来てびっくりよ。棋士の人ってイケメンが多いのね。
 棋院の周りをうろうろしちゃったんだけれど、入って行く若い棋士の人たちがみんなハンサムさんで私、目移りしちゃったわ。
 でもやっぱり一番カッコいいのは貴方。」
「ぶっ☆」

危うく飲んでたコーヒーを噴き出す所だった。
この顔でこのノリかよ・・・。参るな。アイツとはあまりに違いすぎる。

「よお進藤。デートか?」
「緒方さんっ!」

緒方さんの後ろには週刊碁の天野さんと更にその後ろにはおしゃべりな古瀬村さん!
まずっ!

「進藤君ったら隅に置けないなあ。こんなとこでデートかい?」
「もしかして、この方が今噂の塔矢アキラ君そっくりの彼女ですか?」

あああ―、興味津々の目つきだよ。
緒方さんに至っては「ふふん♪」ってな顔して意味ありげにニヤニヤしてる。

「恋女房のアキラ君に隠れてこんなとこでデートとは進藤。 お前もいい度胸だな。」
「はぁ?緒方さん、何言ってるんスか?」
「あはははは!進藤くんと塔矢君、二人とも仲がいいからねえ・・・うんうん」

天野さんは緒方さんの言葉を完全にジョークだと思ってるけど、緒方さん。
絶対あれは気付いてる。
オレとアキラが付き合ってるのを知っててワザとけし掛けてるんだ!この性悪オヤジめ!
心の中でちっ、と舌打ちしながらも上辺でそのジョーク乗ったフリをする。

「そうっすよ。アキラにはこの事言わないでおいて下さいよ〜。あいつヤキモチ焼いちゃうから」
「うんうん、言わないよ、進藤君」

古瀬村さ―ん!
あなたが一番口軽いでしょ?この中じゃ!
それにもう誰かに言いたくてたまらないって顔してるもん。
明日、棋院に行ったら大変だろうなあ・・・・ちくしょう。

「まあ、若者の逢瀬を邪魔しちゃ、馬に蹴られてしまいそうだから、我々はあちらの席に行きましょうか」

ニヤリと意味ありげな視線を寄越しながら緒方さんが皆を引き連れて、遠く離れた席へ向かって歩いて行った。

「はぁ・・・・・・」
「あの・・・・何か?」
「ああ―別にオレはいいんだけど、貴女の方がさ、まずくね?こんなのと変な噂立てられたりしちゃったら、さ。」
「え?私?私は大丈夫ですよ―。今のところ彼氏なんて居ないし。でも噂になったらそれはそれで嬉しいかな。」
「ええ?」
「進藤さん、彼女居ないらしいですし。もし良かったら彼女に立候補させてもらっちゃってもいいですか?」

これをアメリカナイズされてる彼女の社交辞令と取るべきか、はたまたホンキと取るべきか・・・・
オレはしばし悩んで固まった。

「初対面の方に、色々不躾なこと言っちゃってごめんなさい」
「あ・・ああ、いや!オレこそ固まっちゃってゴメン。こんな美人さんからまさかそんな事言われるだなんて
 思ってもいなかったんでオレびっくりしちゃって・・・あははは」
「まあ。貴方ほどの人だったら女の子なんてそれこそよりどりみどりでしょうに。」

と、盛大にため息をつきながら彼女は言った。
どこまで御世辞なんだかよくわかんないまま、彼女とたわいもない話を続けた。
碁はやらないのかと聞いたら、一度試しにやってはみたもののどうも自分には違うと思ったらしい。

弓道ってあれだよな。
袴とか履いて矢を射るヤツ。まさに日本の武道じゃん。
アメリカでも盛んなのかと聞いたら、やはり人口は少ないらしい。
だけど精神性を重んじるスポーツだという辺りが、日本のサムライスピリットに通じるとかで
最近は少し脚光を浴びているんだそうだ。

「あ。もうこんな時間。弓道協会の方へ顔を出さなきゃいけなかったのに。怒られちゃうわ。」

そう言いながらぺろっと舌を出してみせた。
うう―ん。
アイツそっくりな顔でそんなことされるとやっぱ心臓に悪い。
彼女のそんな仕草にドキっとしてしまった事への後ろめたさを感じつつ、
遥子さんと市ヶ谷駅のホームで別れた。
電車を待ちながらしっかりとメアド交換されつつ別れ際

「彼女候補にってあれ。ホンキよ」

という爆弾発言をかまし彼女は去って行った。



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なんか疲れた。どっと疲れた!
重い足取りでドアを開ける。

「ただいま―」
「お帰り。」
「疲れたぁ〜〜」
「綺麗な女性とデートしてたんだって?」
「げ!何で知ってんの?・・・・って緒方さんか」

あの兄弟子がぁ!やっぱりおちょくってんな。オレらの事。

「イトコなんだって?オマエわかってんだったらあん時、教えてくれればよかったのにぃ」
「や、もしかして?とは思ったけどこっちに帰ってるだなんて聞いてなかったから」
「それにしても似てるよなあ・・・・。
 イトコっつったってほとんど双子みたいな顔つきじゃん。二人とも。
 髪型もだけどさぁ、目とか口元とか気の強そうなとことか・・・・」
「双子だよ」
「え?」
「表向きはイトコだけど、本当はボクらは双子なんだ。あの母から生まれた正真正銘の」
「えと・・・・・」
「話せば長くなるんだけど・・・・」

と塔矢が話し出した。

「そっか・・・・んじゃオマエのお父さんの弟さん、オマエにとってはおじさん・・・のお子さんが
 生まれてすぐに亡くなって、そんで奥さんはその時の事がもとで子供を産めなくなったから・・・」
「そうだ。それに母もその頃は身体が弱くて双子を育てるのは・・・というのもあってね。養女にということになった。」
「彼女はそのことを知ってんのか?」
「ああ、知ってるよ」

そうだったのか・・・。
今はこんな風にサラっと言ってるけど、きっと辛い想いとかあったんじゃないだろうか?
って思うと胸が痛んだ。


その翌日の棋院。
やっぱり昨日の事は既に大々的に噂として広まっていた。

「よぉ!進藤。オマエ、あの塔矢似の彼女とデートしてたんだって?」
「デートじゃないってばよ・・・」
「塔矢の親戚らしいじゃん」
「うん。そう」

あまりの予想通りの展開っぷりに声もどんよりと曇る。

「あ、進藤く―ん。君、彼女出来たんだって?」

伊角さんまで・・・・。
だからどうしてこの手の噂って回んの速いんだよ?!
いちいち皆に否定して回るのもなんだし、こういうのって否定すればするほど怪しいとか言われるじゃんな―。
盛大にため息をついた。


「進藤。キミ結婚するんだって?おめでとう」
「塔矢!何言ってんの?」
「下はもうその話でもちきりだよ、進藤」
「ちょっ・・・・とっ・・塔矢っ」

何だよぅ〜〜。
オマエ知ってるクセにぃ。いじわるー。
何拗ねてんだよー。
ヤキモチかぁ?それはそれで嬉しいけど。
・・・いやいやいや!
それはマズイ!
なんだかなーもう。
憂鬱な気分で手合いをこなして下に降りたら彼女がいた!


********************************

「あ!進藤さん」
「こんにちわ、遥子さん」

「おいおい・・・進藤の奴、下の名前で呼んでるぜ?やっぱ・・・」
「仲いいよなぁ・・・」
「見せつけんなよー」
とすかさずヤジが飛んだ。


あああ・・・・しまった!
でもさ。
塔矢って呼びたくないんだよなあ。
オレ的には塔矢っつったらやっぱアイツんことだしー。

「明日、アメリカに帰るのでやっぱり一度、ここを見ておきたいかなって
 思ったんです。迷惑だったでしょうか?」

苦虫を潰したような顔でもしてたであろうオレを見て、彼女は顔を曇らせた。

「や!いや!そんな事はないっす。じき塔矢も降りてくるだろうし、棋院の中見ます?」
「下の囲碁殿堂と一般室を見せてもらったのでもういいかな。」
「そっか。これから何か用事はありますか?」
「いえ別に」
「あ、来た来た!塔矢ぁっ」

手をブンブン振って塔矢を呼ぶ。
「アキラ!」
「遥子。久しぶりだね」
「明日、アメリカに帰るんだってさ。どうする?どっか行く?」
「じゃあ、うちに来るか?遥子?うちも久しぶりだろう?」
「懐かしい!うん、行く行く。進藤さんももちろん一緒ですよね?」

と、好意を目いっぱい露わにした表情で無邪気に尋ねられ
塔矢の視線も気になりオレは心臓がバクバクだった。



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「懐かしい!ほら、ここの柱のキズ。これ私がつけたのよ?覚えてる?」
「ああ、あの時は後で母にこってり怒られたよ」
「もうっ、アキラったら自分が付けたんじゃないって言えば良かったのに」
「どっちでも一緒だ。見ていたあなたは何故遥子を止めなかったの?!って怒られたと思うよ」
「あははは、そうねきっと。」
「遥子さんはこの家には結構来てたんだ?」
「ええ、ヒマさえあれば遊びに来てたわ。お互いの家も近かったし。
でもあの頃はまだ兄妹だって知らなかったから今思えば無邪気だったと思うわ。
イトコ同志だと思って疑わなかったし。」
「でも母は嬉しかったと思うよ?」
「うん・・・・」


それから昔のアルバムを取り出してわいわい昔話に花が咲いたりなんかして
今まで聞いたことの無かった塔矢の子供の頃の貴重な様子が聞けてオレ的には大収穫な晩だった。



翌日。
幸いオレも塔矢も仕事が休みだったのでオレの車で遥子さんを成田まで送ることになった。
ざわついた空港待ち合い席付近は、搭乗時刻の流れに沿うかのように、人々の姿で溢れていた。
今年はなんたらウィークとかいうお陰でどこもかしこも大変だ。


「今日は折角のお休みだったのにごめんなさい。」
「いやいや。天気もすっげぇいいし気持ちのいいドライブが出来て何よりだったぜ。」
「進藤さんって優しい・・・・。やっぱり私、進藤さんの彼女に立候補って言うの諦めきれないなあ・・・。」
「ええっ?」
「なんてね。進藤さん付き合ってる人、居るでしょ?」
「え?何で知ってんの?」
「しかもかなり身近な人でズバリ☆私も良く知ってる人!」
「ううっっっ!!」
「アキラには敵わないなぁ。ちぇっ!仕方ないかぁ。」
「えええっっっ?!」
「だって昨日、見ちゃったんだもん。私がトイレに立った隙に二人キスしてたでしょ?」
「え?!!」
進藤ぉ・・・・・だから僕はやめろと!

塔矢がオレのわき腹に肘鉄食らわせてきた。
「話をしてても二人の雰囲気って友達って言うよりも恋人みたいなカンジだったから多分そうかな〜って。ああ、多分
他の人はわからないと思う。大丈夫。アメリカって・・・多いじゃない?だから割とスグに分かるんだ。」
「はは・・・・・そ・・・そうだったんだ・・・遥子さんには敵わないや」
「相手が悪いわ。アキラじゃね、私諦めるしかないじゃない。悔しいけど。」
「うん、ごめんな。オレこいつ以外には考えられない。もうゾッコンなんだよ。」
「う・・わ!ゴチソウサマ♪ああ、そうだ進藤さん。」
「何?」
「今日は進藤さんのBirthdayですよね?そう思って・・・・これを。」

バッグをごそごそし始めた彼女がちょいちょいと手招きをしている。
「進藤さん、これ!」
手のひらに何か包んでオレの前にかざして来たので、どれどれ?と覗きこんだ・・・・ら!


チュ―されちゃった!!!

しかも襟首引っ掴まれて!!


マジかよっっ!塔矢の前でっっ!!
うわーーーーーーーっ!

「ふふふっっ♪アキラ、ごめんね!」
「ちっとも悪いだなんて思ってないんだろ?」
「うん♪」


どうでもいいケド、オレの襟首引っ掴んだままアキラと会話すんの止めて欲しいんですけど?
この強引なところはやっぱ兄妹だよ・・・・。


「私、もう行くね!進藤さん、アキラ。ありがとう!」
「気をつけてな」
「おじさん、おばさんによろしく伝えてくれ。」
「うん分かった。じゃっ!」


空色のワンピースをひるがえして彼女は去った。
途中、何度も振り返っては大きく手を振りつつ・・・・・。



帰りは塔矢が運転すると言うのでオレは助手席に座った。
頭の上を轟音を立てて飛行機が次々と飛び立って行く。

「人を見送った後ってちょっと寂しいな。」
「ボクが傍に居るのに?」
「うわっ!うそうそ!・・・・って塔矢?道、反対じゃね?」
「海を見に行こう?進藤。」
「おお、いいねえ!海!」
「海に行きたいって君、騒いでたけど今年は二人とも忙しくってそれどころじゃ無かったから。」
「うん、なんかあれこれイベントに駆り出されちまったもんな、オレたち。」
「今日は一泊だけど宿を取ったからノンビリ過ごそう?」
「え?マジ?」
「うん、マジ。」

うわ。普段言葉づかいのいい奴がマジとか言うとグっとクる。
っつか嬉しい。塔矢がオレの為に。
もしかして誕生プレゼントか?

「あ、だけどオレ着替えとか無いけど。」
「ああ、僕が適当にバッグに詰め込んでおいたから。僕のチョイスで悪いけど我慢して?」

そう言いながら後ろのトランクを親指で指差した。
今朝、いやに早起きだなと思ったらその支度してたのか?






「塔矢、サンキュ」





その言葉に答えるかのように塔矢はアクセルをグっと踏み込んだ。



「進藤・・・・・誕生日、おめでとう」



ハンドルを握り前を向いたままそう呟く綺麗な恋人の横顔をオレは堪能する。




海沿いの道。
急に視界が開けて目の前には真っ青な海が広がっていた。



一瞬その青の中に、空色のワンピースをひるがえし去って行った彼女の姿が重なって消えて行った……


進藤。23歳、おめでとう。
ますます素敵になっているだろう貴方から目を離すことが出来ません(笑)
アキラさんと切磋琢磨しながらどうか末長くお幸せに・・・・・・

そして今年も誕生祭を開催して下さってありがとうございます!

  

今年は9月20日に、進藤キャラケーキを作りました。そのレポページもございます(苦笑)
もしよろしかったら下の写真からどうぞ。