注:これは日記で連載中のお話です。

別れ・18


「塔矢っ!」

振り返った進藤の瞳の中にはハッキリと情欲の光りが浮かんでいた。
それを見て取った塔矢はかすれたため息を零しながら、進藤を正面からゆっくりと抱きしめる。

「あれからずっと苦しかった・・・・・・キミが欲しくて欲しくて・・・、どうしようもないんだ!」

声が震えていた。
塔矢の言葉が進藤の胸に突き刺さる。
思いがけない事で別れなければならなくなってからこっち、進藤の心の中には塔矢へ対する謝罪と
懺悔の気持ちしか無かった。
そんな後ろめたさから、まともに視線すら交わさなくなって1年あまり・・・・
美しい瞳の中に自分を映してくれている塔矢の顔を早く見たくて、キスを交わしたくて顔に手を当て
自分に向かせる。
塔矢がギリと進藤を睨む。
そして瞳を閉じて息をすう、と吸った。
何か大事な事を言うんだろう、とその様子から察した進藤は塔矢の言葉を待つ。


「進藤。今晩これからのことはボクの我がままからにすることだ。遊びだと片付けてくれればいい
キミが気に病む必要は無い。ご家族に対しても、そして僕に対してもだ」

「塔矢・・・」

「そうとでもしてくれないと僕は・・・」

「塔矢・・・・」


今自分がどうこう言ったところで塔矢は聞き入れないだろう。
遊びなんて生半可な気持ちで抱ける相手ではないし自分はそんなつもりもない。
けれどそんな塔矢の精一杯の気遣いを聞き入れたフリをしよう。
そう無言のうちに判断し、俯いた塔矢の顔に手をあて上を向かせる。


「塔矢・・・・キスしてもいい?」

「そんなこと・・・・・・聞くな」

「うん」

そしてどちらからともなく顔を近づけ、抱き締め合いキスを交わした。
最初はゆっくりと相手を確かめるようなゆるやかなものだったが、次第にお互い熱を帯び深く激しいものになった。
角度を変えつつ、しかしその少しの間でも合わさった唇を離したくなくって狂ったように唇を押し付け合う。
余裕無く互いの舌を絡め合い強く吸い、あまりの激しさと息苦しさに思わず塔矢は顔を逸らそうと声を洩らす。


「んんっっ・・・・あ・・・・」

「だめ、もっと・・・こっち向いて・・・・」

「んっっ・・・ふっ・・・・・」


顔を手で固定され息が出来ない程の勢いで進藤に口内を荒らされ、塔矢は気が遠くなるほどの陶酔感に酔いしれた。
何度も何度も夢に見た。
自分に向かって笑いかける進藤。
抱き合い進藤に高められながら彼の名を呼び仰け反り彼の背中に爪を立てて・・・・・・
そんな夢を見た朝はとても空しく、果てしなく辛かった。
こんな辛さがいつまで続くのか。

どうしようもなく進藤を求めてしまう自分をどうする事も出来ず、そんな自分を持て余して。
やりきれなかった。

柔らかい微笑み、自分をかき抱く逞しい腕。
懐かしい彼の匂い。
以前にも増して引き締まった身体・・・・・・
今、この男は自分だけのものだ、と思う。
そんなことは後になれば切ないだけだ、とわかってはいたけど今の塔矢にはこれしかなかった。
愚かな事だと頭の片隅に浮かんでくる思いを消し去るかのように塔矢は背中に腕を回し、ぎゅっと進藤を更に強く抱き締めた。

全てを貪り合うかの様にお互い、ただひたすらキスに集中する。
まるで今のふたりにはそのことしかないかのように・・・・・
何度も何度も角度を変え、相手の背中に自分の手を這わせ抱き寄せる。
背中から首筋・・・そして髪の中に手を潜りこませ髪をかき乱す。
やがて進藤の唇が首筋を下りながら塔矢の浴衣の前を開き胸へと降りて行った。

今、自分の全身に巡るような甘い快感を与えているのは進藤だ。

そう思った瞬間、頭の先から足元にまで痺れが走り塔矢の膝からは力が抜け足がクタリ、と崩れる。
そんな塔矢を支えながら進藤も絨毯が敷き詰められている床に崩れ落ちた。
すでに息の上がった塔矢をそっと床に横たえ、その身体の上に跨りながら着ているものをもどかしそうに脱ぎ捨てる進藤。
そして床に広がった塔矢の浴衣の上に倒れこんだふたりは、熱い身体を重ね狂った様に重ね合わせ
お互いを貪るような激しい愛撫を与え合う。


「ああっっ・・・しんどっっ・・・」

「とうやっっ・・・もう・・・・」

「このまま・・・・・」

「うん・・・も、オレ・・・・・ダメ・・・・一回・・・・・このまま・・・・いこ」


荒れた息の下、進藤が耳元で囁く。
塔矢の身体を開く間も惜しく、互いの昂りを重ねお互いの手を添えふたり激しく身体を揺らす。


「ああっ・・はっ・・・・あ・・・・っっっ」

「塔矢、とうやっっ」

「しんど・・・・・っっ」


ふたり一気に高みへと上り詰め、何度も何度も激しく身体を震わせ殆んど同時に達した。
力尽きた進藤がゆっくりと塔矢の身体の上に降りてくる。


「塔矢・・・・・とうや・・・・愛してる・・・・」


まだ荒い息の中囁やき。
それはいつも彼が達した後必ず塔矢の耳元で零す言葉だった。
達したばかりでまだ息も整わず一瞬瞳を潤ませた塔矢は、その言葉を聞いてピクリと身体を強張らせる。


「進藤・・・・・・・・それは・・・言わないでくれ」

「え?」

「辛い・・・・戯言だと片付けるには・・・・それに今日のことはあくまでも遊びだと・・・・そうしてくれないと
僕は・・・・」

「やだ。だってオレまだオマエのこと、好・・」


好き・・・そう言いかけた進藤の唇を体勢を入れ替えた塔矢が、唇で荒々しく塞ぐ。
そこから先は言わせない!とでも言うかのように進藤の身体を床にねじ伏せ、何度も何度も口付けた。
ふたりの唇がお互いの唾液で濡れ、下から見上げる塔矢の唇は赤く扇情的に光っている。
その光景に進藤の背筋は電流が走ったようにゾクリと震えた。


「進藤、ベッドに行こう」


その妖しいまでの扇情的な唇で進藤を誘う。
お互いのもので汚れた身体を拭き身体を起こそうとするが、まだふたりあまりに先ほどの余韻が強すぎて身体に力が入らない。
ふらふらと立ち上がり、お互いがお互いを支えあうようにして隣室のベッドにドサリ、と倒れこんだ。

「進藤・・・・・」

「塔矢・・・まだ・・・」

「もっとキミが欲しい」

「んっ・・・はっ・・・」


塔矢が進藤の首筋に唇を這わせる。


「痕はつけないから・・・そのままじっとしてて」


そして胸の頂を優しく口内で転がす。
あまりに性急な塔矢の行動に進藤は一瞬とまどいつつも、塔矢の唇がもたらす快感には抗う事は
出来なかった。
まだ先ほど達したばかりの進藤のそれに塔矢は手を伸ばす。
達ったばかりで過敏になっているので、優しくなでるように・・・・
そしてゆるゆると勃ち上がってきたのを確認すると、まだ余韻が残り気だるい身体を下にずらし
塔矢は進藤のものに舌を這わせた。
まさかの塔矢の行為に進藤は驚いたが、そんな愛しい行為に感じないはずも無く
萎えていた進藤自身はたちどころに硬さを取り戻した。

サラサラと零れ落ちる髪を手でかきあげ、もう一方の手を進藤自身に添えながらその先端にそっと口付け
ゆっくりと舌を這わせる。
びくりと大きさが増したそれを口に含み、そのまま一気に喉の奥まで飲み込んだ。


「はっ・・・・んっ・・と・・や・・・」


進藤の腰が予期せず跳ね上がる。
それに構わず塔矢は根元から先端へ舌を使い、吸い付き、吸い上げ頭をゆっくり上下に動かした。


「だめだよ・・・塔矢っ・・オレ」


進藤が焦った様に塔矢の顔に手を伸ばし、顔を上げさせ自分自身を解放させる。
そこには塔矢の潤んだ瞳と濡れた唇があった。


「まだ・・・・足りないんだ・・・・キミが。」


濡れた唇が言葉を紡ぎ出す。

「オレだって・・・・っっ」


それまでされるがままになっていた進藤が起き上がって、塔矢の肩を押さえ込み体勢を入れ替える。


「塔矢、こんなことして。オレ・・・・もう止まらないからな」

「滅茶苦茶にしてくれ、進藤・・・・今日は・・・キミの全部が欲しい」

「っっ・・・・・塔矢!」

「あっ・・・・・・」


さっきかいた汗がまだ残る塔矢の首筋に唇を這わせ強く吸った。


胸の突起に指を這わせ軽く、強くつまむ。
身体をよじらせ額に汗を滲ませ、時には声を出して感じている事を少しも隠そうとしない塔矢。
ほんの少しの愛撫に激しい反応を見せ、声を上げるそんな塔矢に進藤の理性は限界を超えた。

堰を切ったように塔矢の身体中に激しくキスを落とし、あちこちに紅い印を残す。
首筋に・・・・胸元に・・・・腕に・・・・・腿の内側に
そしてすでに大きく張りつめている塔矢の中心を手におさめゆっくりと上下に動かし始めた。


「ああっ・・・・しん・・・どぅっっ・・・」

「塔矢、もうこんなに濡れてる・・・・・」

「はぁっ・・・んん・・・・来て、進藤」

「だめ、慣らさないと・・・・キツイぞ」


そう言いながら塔矢の濡れたものを使って後ろに指を入れた。
1本、2本・・・・
少しずつ広げながら中に指を進めていく。


「んんっっ」

「痛いか?」

「大丈・・・夫・・・だから・・・あっっっ!」


進藤の指が塔矢の感じるポイントに触れ、塔矢は首を仰け反らせ大きな声を上げた。
汗ばむ白い身体のあちこちに紅いしるしを散らしながら進藤を求める様は、息を呑むような美しさだった。
首を振り声を上げ続けている塔矢の額には髪が張り付き、艶やかな黒髪は白いシーツの上で波打っている。
そんなあられもなく乱れるかつての恋人の姿を目の当たりにして、進藤はもう限界だった。


「塔矢・・・・オレ・・・もうオマエん中挿りたい」

「僕ももう・・・・早く、早くキミが欲しい」

「塔矢」


指をするりと抜き、かわりに自身をそこに押し当て・・・・・一気に貫いた。


「ああ・・・っっ!!」

「熱い・・・・塔矢・・・・すごく」

「はあ・・っ・・・あっ・・・・・あ・・・・ん・・っ」

「とう・・・やっ・・・!」


本当はもっと優しくしたかった。
もっとゆっくりと時間をかけて塔矢の身体を開いて挿りたかった。
しかし1年以上も触れることの出来なかった塔矢の艶かしい身体を前に、手加減などしている余裕は今の進藤には無かった。
最奥まで押し進めてはギリギリまで引き抜き、また一気に貫く。
その度に悲鳴に近い様な塔矢の声が上がる。
しかしそれが痛みによるものではなく快感から発せられているものだということは一目瞭然で、
進藤は迷うことなく身体を押し進め激しく抜き差しを繰り返した。
塔矢の中はとても熱く、奥へ奥へと引き込むように絡みついてくる。
進藤は今にも弾けそうになるのを必死で堪えた。

進藤の下で身体を揺らされながら、うっすらと涙を滲ませている塔矢の目じりにキスを落とす。


「塔矢・・・・塔矢・・・・っ好きなんだ!オマエだけなんだよ!」

「だめだ・・・進藤・・言うな!」

「言いたい・・・・・だってっ」

「ダメだと・・・言った・・・ろ・・・・・・んんっ」

「塔矢・・・・・オレ・・・辛い」


身体を繋げながら哀願するように囁く。


「それならせめて・・・・」

進藤が塔矢の耳元で何かを囁いた。


「・・え?」

「アキ・・ラ・・・アキラ・・・っ」


身体を揺さぶりながら何度も囁き続ける。


「進藤・・?!」

「名前・・・・呼ばせて。それならイイだろ?」


汗を額に滲ませ息を荒げながらニコリと笑う進藤に、塔矢の胸には締め付けられるような甘い想いがせり上がってきた。

以前一緒に暮らしていた頃、お互いを下の名前で呼びたがっていた進藤。
それを頑なに拒んでいたのは塔矢だった。
外でうっかり下の名前で呼んでしまうとも限らなかったからだ。
いくら何でもいい年をした男同士が下の名前で呼び合うのはおかしい。
そんな危険を冒してまで、そのことに固執する気は当時の塔矢には無かった。


「アキラ・・・・これは・・・・好きだって・・・・愛してるって言えない代わりだと思って」

「進藤・・・・」

「だから、オマエも名前で呼んでくれよ、な?」


ゆるゆると腰を動かしながら、苦しいような切ないような堪らない表情を見せる彼に駄目だと言えるはずもなく
塔矢の今までのこだわりなどあっさりと消え失せる。


「ヒ・・・カル・・・」

「アキラ・・・ッ」

「ヒカルッッ」


今夜の後ろめたい気持ちや切なさを、お互いその言葉に込め何度も何度も呼び合う。


「ああっっっ・・・!」

「アキ・・・ラッ!」


進藤が名前を呼ぶ度うねるように絡みつく内壁に、進藤はぐっと歯を食いしばって快感をやり過ごす。


「んんんっっ・・・・・・んあっ、あっ・・・ヒカ・・・・ル・・・・ああっ・・・・・」


揺さぶられ、突き入れられる度塔矢の口からは嬌声が零れた。
そんな塔矢に進藤がいつまでも耐えられるはずもなく、何度も山を乗り越えた進藤に限界が来る。
塔矢も進藤が何度もいきそうになるのを堪えているのがわかり、それが更に塔矢の快感を増幅させていた。
進藤の腰の動きに自らも合わせ、揺らし身体を仰け反らせながら頂点が近いことを進藤に伝える。


「ヒカル・・・・っ・・・もう・・・・」


進藤に最奥まで貫かれ甘い声を上げながら、彼の身体に手を伸ばし、抱き寄せ、声を限りに彼の名前を呼ぶ。


「ん・・・オレも・・・いく」

「あああーー・・・・っっ・・・っ」


一際大きな声を上げ塔矢の身体は大きく仰け反り弾けた。
全身を震わせ痛いくらいに締め付けてくる塔矢に進藤も限界を越え、何度か激しく腰を打ち付けて
自分の熱を塔矢の中に放った。


塔矢の身体の上に降りてきた進藤の熱い身体を、まだ荒い息の下で抱きしめる。
声を発することも出来ないくらいに消耗していた二人は、暫らくそのままで抱き合っていた。


「大丈夫か?・・・・・・」

「うん・・・・・」

「あ、ゴメン。今どくから」

身体を動かしまだ塔矢の身体の中に残ったままだった自身を引き抜こうとする進藤の腰に、塔矢は足を絡め引き止める。


「いやだ!まだ抜くな!」


そう言いながら絡めた足をより一層深く絡みつかせた。


「アキラ?!」

「まだだ!僕から出ていくな!」

「これ以上無理したら、オマエ壊れちまうぞ」

「これぐらいで壊れるような僕じゃない」


切ない声で抗議の声を上げる塔矢に進藤は、胸に愛おしさが次々とこみ上げてくるのを止めることが出来なかった。
黒々とした美しい瞳の中に自分を映しながら訴えるかつての恋人・・・・
こんな切ない我がままを断れるはずもなく。
進藤の身体に火がつき、またたく間にアキラの身体の内部で熱を取り戻し始めた。
そんな様子を身体の内部に感じ、喜びのため息を零すアキラ。

進藤と出会ってからもう10年以上が経つ。
思いを告げあって一緒に暮らして2年。
そして別れてから早、2年近くになる。
長かったような短かったような・・・あっと言う間の日々だったかも知れない。
付き合っていた頃、よく進藤に対して些細なことに腹を立てなじったり怒ったりした。
大らかな進藤はそんな塔矢に動じる事も無く、自分に接してくれた。
時には甘く、時には厳しく・・・・・・
でもいつも自分を愛おしんでくれていたのが痛いほど伝わってきていたからこそ、
存分に自分は甘えていられたんだ。
と塔矢は思う。
進藤を離したくない。
彼の側で笑っているのは常に自分でありたい・・・・
そんな甘酸っぱくも切ない感情が、胸の奥から次々と溢れてきて止まらない。
そして塔矢の身体の芯にまた新たな火が灯る。


「ヒカル・・・・もっと奥に・・・」


進藤の腰に絡み付けた足に力を込める。


「・・・・っ・・・・アキラ、このままじゃ明日オマエ、きっときついから後ろから・・・・」

「イヤだ。それじゃキミの顔が見えない」


進藤の首に腕を回しグイっと彼を引き寄せる。
繋がりながらのその体勢は塔矢にとっては辛いものだったが、そんなことに構ってはいられなかった。


「アキラ・・・・・」

「ヒカル・・・っ」


進藤の背中に爪を立てながら顔を激しく振る塔矢の漆黒の髪がシーツの海に散らばる。

それから進藤は無我夢中で塔矢の身体を抱いた。
塔矢もまた際限なく進藤の身体を求めた。
進藤の全身に唇を這わせ、自ら彼の上になり身体を激しく揺らし・・・・
ふたり何度果てたのか。
最後に塔矢が意識を手放した時、既に外は白み始めていた。



カタン



微かな物音に塔矢は意識が少しずつ浮上してきた。
目を閉じたまま無意識にシーツの上に手を這わせ進藤を確かめようとする。
最近になってやっとやらなくなった塔矢の朝のクセ。
進藤がいたはずのそこはまだ少し、彼の温もりを残していた。
身体に残る甘い痺れが昨夜の出来事が確かにあったことだと教えてくれる。
昨夜薄れていく意識の中でボンヤリと感じた、ヒカルの優しい手。
アキラを胸に抱え込みゆっくり、ゆっくりと愛おしむ様にアキラの髪をいつまでもいつまでもなで梳いてくれていた。
泣きたくなるような切ない気持ちがこみ上げてそのまま眠りに入ったのだった。

僅かに衣擦れの音がする。

そうか、もうキミは帰るんだな・・・・家族の元に。


「アキラ・・・・・まだ寝てるよな。オレ行くから・・・・・・・・」


寝ている塔矢を起こさないように、小さく囁きながら進藤は塔矢の髪に唇を寄せた。


「アキラ・・・・・好きだよ・・・前よりずっと・・・・・」


その声は微かに震えていた。
行くな!と引き止めたかった。
けれどそんなことは許されるはずもなく、塔矢はただ寝ているフリをするのが精一杯だった。


ふわり、と彼の温もりが離れていく。
そして遠くでパタリとドアが閉まる音が聞こえた。


「う・・・・・・・」


声を殺して塔矢は涙を流し続けた。
彼の事で泣くのは今日で最後にしよう。
そう自分に言い聞かせながら、いつまでもひとり肩を震わせ続けた。



「アイツ今頃きっと泣いてる」


塔矢の髪にキスを落とした時、アキラのまつげがかすかに小さく震えていた事に進藤は気づいていた。
そして、そう呟く進藤の瞳も濡れていた。


目も眩んでしまいそうなほど晴れ渡った、それは5月の早朝のことだった。