lemongrass(by:新城ゆきの)


夜景

搭矢《1》

『進藤、驚いていたな・・・・・。』

ラウンジで彼女の話に相槌を打ちながら、アキラは心の中で呟いた。
あれは月曜の棋院での出来事・・・・。

『進藤ってさ、いっつもあのホテル使ってるわけ?』

手合いを終え棋院のエレベーターを降り1階のロビーに出たら、進藤と和谷君がそこにいた。
どうやら和谷君が進藤の週末のデートの予定なんかをあれこれ追求しているらしい。

『いつもって訳じゃねぇよ。でも・・んーーーーあそこって夜景がキレイだし、レストランもイイ店入ってっかんなあ。んで、彼女がさあ「私たち今度の土曜日で付き合い始めて3ヶ月ね♪」なんて言うもんだから。女ってそういった記念日的なイベント好きじゃん。』
エレベーターに背を向けた格好の進藤は降りてきた塔矢に一向に気付く様子もなく、大きな声で喋り続けている。

『あ、搭矢』

『え?』

とそこで塔矢に気がついた進藤はパタリとその話を止めた。

(いつもそうだ、キミはその手の話はいっさいボクには振って来ないよね。だから余計に・・・そう、意地悪したくなったんだ、ボクはキミに・・・・)


鉢合わせを承知で週末のデートの締めをそこにした。




『進藤ヒカル』
キミと出会ってからもう10年近く経ったのか?・・・。
まだお互い小学6年生で、キミと初めて打った時には驚いた。
手つきは全くの初心者なのに、その指先からもの凄い一手を次々と放って来たキミ。
かと思えば僕が思わず『ふざけるな!』と叫んでしまったような手を打ってきたり・・・。

いつからだったんだろう、進藤のことが気になり始めたのは。
始めは『彼は一体何者なんだ?!』という疑問からだった。
そしていつしかその疑問を解きたいう事よりも彼の瞳に映る自分を意識するようになったんだ。
そう・・・はっきり「そういった意味で」彼を意識するようになって行った。
仲間と楽しそうに戯れているキミ。
丸くって大きくてクルクルとよく動く瞳。
いつだって、僕はその瞳の中に映りこんでいたかった。
『もう碁は打たない!』
とキミが言った時どれだけボクがショックを受けたか、キミに分かるか?!

ある時期を境に急に大人びた目つきをするようになったキミ。
何かどうすることも出来ない辛い事があったんだろう。
でもキミのことだからきっと、浮上すると信じていた。
予想していた通りにキミはまたここに戻って来て、ボクとも打つようになり段位もどんどん上がっていった。

ボクたちが色んな意味で「同い年の好敵手」としてマスコミに取り上げられるようになってからだ。
進藤があれこれ派手な女性関係で回りを騒がせるようになったのは。
雑誌で対談した若い女優から猛烈にアプローチを受けて付き合いだした時は、流石に棋院もマスコミ対応に追われて大変だったな。
まあ・・・・しばらく付き合ってあっけなく別れたみたいだけど。
進藤の方が振られたらしい。
振られた、と聞くたび僕はホっとすると同時に同性であるがゆえに進藤にアプローチ出来ない自分に歯痒さを感じていた・・・。


『アキラさん?』

『ん?・・・ああ、すみません。ちょっとぼーっとしてしまって。』

『きっと疲れてらっしゃるのね?そろそろお酒、止めにします?』

『麻子さんはもういいんですか?』

『ええ・・・アキラさんに色々とグチを聞いてもらったらさっぱりしちゃったわ。お酒もお料理もとても美味しかったし・・・』

『じゃ、行きましょうか?』


彼女をさりげなくエスコートしてラウンジを出て、階下の部屋へ向かった。


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シャワーを浴びてすぐにボクらは抱き合った。
栗色の長いさらさらの髪の毛がシーツ一杯に広がる・・・・
彼女の白い首筋にキスを落とし柔らかいふくらみに手を這わせた。
女らしい綺麗に均整のとれた身体。引き締まったウエスト・・・・。
そして、それにちゃんと反応している自分自身。


『んっ・・・・あ・・あ・・あああっ』


ボクの身体の下で歓喜に震えている彼女の身体・・・・。

女性経験は彼女が初めてではなかった。
一人で飲んでいた時女性の方からモーションをかけられて、その場限りのお付き合い・・・と言う事が何度かあった。
もうその時ははっきりと進藤の事が好きになっている自分に気がついていたけど、だからといってそれをどうすることも出来ない自分にかなり苛立っていた時期でもあったから、誘いを受ければ半ばヤケ気味で身体の繋がりを求め続けていた。
きっと人肌が恋しかったのかも知れない・・・・・・そして今も・・・・・。


『進藤君のこと・・・考えていた?』

『えっ?』

ことが終わってから暫らくぼーっとしていたボクに彼女がふいにそんな言葉を掛けてきた。

『あ・・・うん。ちょっとね。ごめん、今日はいきなり誘ったりして。』

『ううん、最初っからそういう約束だったし・・・それはお互い様だし。』

そう言う彼女の瞳が少し寂しげに見えて・・・・また深い口付けを交わしボクは彼女を抱いた。

                      
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