odayakana-sora(by:新城ゆきの)

夜景

進藤《2》

『ありません』

『ありがとうございました。』

彼女から振られた翌日の手合い、オレはスンナリと勝ってしまった。
少しはショックで今日はやべぇかな?とか思ってたけど、そんなん全然無かった。
返ってスッキリしていたくらいだ。
あーーやっぱオレってどっか精神的欠陥があるんだろうか?

『オマエ、また勝ったのな!いいよなー、私生活彼女とも上手く行ってて碁も調子がいいなんてさ。オレから見れば羨ましい限りだぜ!ちくしょう!』

『別れた』

『ああ?』

『だぁーかぁーらー別れたっつの!昨日!』

『また振られたのかよ?!オマエ!!』

『ああそーだよ!ちくしょう!嬉しそうだな?!和谷!』

『まあ・・そりゃあなあ?人の不幸は蜜の味って奴?んで一体今度は何やらかしたんだよ?!オマエ?!ダブルブッキングかぁ?それとも最中に別の女の子の名前を呼んじゃった・・と・・かさ。あ、搭矢』


ぎくっ・・・今の話聞かれたか?!


『楽しそうだね?和谷君。』

『コイツ、また女に振られてンだぜ。んで今いじめてたトコ。』

『ふぅ〜ん・・・・それはまた・・・何と言っていいんだか・・。大変だったね、進藤。』


搭矢の奴なんか嬉しそうに話しかけてきやがったな。


『お前に言われたくない。』

『まあそう拗ねるなって、な?今晩付き合うぜ!ヤケ酒。そーだ、伊角さんも誘ってこよーっと。ぱぁーっとやろうぜ?!ぱぁーっと、な?』

メンバーは他に誰と誰と・・・・なんて一人呟いてから、和谷はどっかに消えて行った。
またオレを酒の肴にして飲む気だ、コイツら。くそーーー。


『ところで搭矢、一昨日さあ・・・・・・』


あの時ラウンジで一緒にいた彼女について聞いてみようかとも思ったけど止めた。
搭矢はこちらには気がついてなかったはずだ。


『え?何?』

『えっと・・・ううん・・・お前も来る?オレの失恋パーティー。』


もうこうなったらヤケだ。



『いや、遠慮しとくよ。今日は。』

『またデートか?この前の彼女と。』

『え?キミ知ってるのか?』

『うん、見ちゃった。一昨日ホテルのラウンジで。・・・ってオレもそこでデートだったんだけどさー。お前もあんなとこ行くんだな、って思って。』

『ふふふ・・・そういった情報は葦原さんが詳しいからね。色々と聞きもしないのに教えてくれるよ、あそこのホテルはどこそこのシェフが入ってて料理が絶品だ、とか夜景ならここがお勧め♪とかベッドルームはここのホテルが雰囲気いいぞ、なんてね。』


うっ・・・・・・こいつの口からベッドルームなんて言葉を聞くなんて。


『それで、キミも来てたんだ?彼女と。』

『ああ、そんでもって振られました!キッパリと!』

『ヤケ碁だったらそのうち付き合うよ?進藤。』


クスクス笑いながら搭矢はオレの肩をぽんって叩いて帰って行った。






叩かれた肩が熱を持ってるみたいに疼く。










『搭矢君は今好きな人とかいるんですか?』


何年前だっけ?北斗杯が終わった後女性雑誌の取材を搭矢と一緒に受けたことがあった。
《近頃の若者たち》とかいうタイトルで。
まだ若いオレたちが進学もせずに囲碁界という一種独特な世界に身をおいてしのぎを削っている、というのが世の女性たちからすると珍しくもあり興味を大いにそそる、ってことでインタビューを受けたんだっけな。
そんときのインタビュアーがひとしきり取材を終えた後、搭矢にこう切り込んだんだ。

『好きな人・・・ですか?・・・・・・・ええ、いますよ』

搭矢は目を伏せながら答えた。
ええっ?!オレは驚いた。
だって、搭矢がこんな下世話な質問に答えるとは思ってもいなかったから。
それに・・・・好きな娘がいるんだ・・・。

『ええーーっ♪いるんだァ?でどんな娘?年下?かわいい?』

『同い年で・・ええ、素直で元気でひたむきで・・・・傍から見ていて凄く可愛らしいです。ボクとは正反対の性格ですからきっと惹かれるんでしょうね?』

と言うと綺麗に微笑んだ・・・・・・。
その顔を見てオレは・・・・・・ゾクってキたんだ。
それと同時に搭矢の言葉にショックを受けてる自分がいた。
(アイツ、好きな娘いるんだ・・・・・。)

『んじゃ、進藤君は?好きな娘なんている?』

『えっ?オレっ?い、いないですよー、ってか今オレそんな余裕無くって・・・・。』

『そっか、搭矢君に追いつけ!追い越せって感じかな?ふたりってほんと、いいライバルなんだね?羨ましいなー』






アイツんちの碁会所で何度も一緒に碁を打ったり、家にも行って打ったりもしてた。
もう、しばらくアイツとは一緒にいる事が多かったから、・・・・アイツのことなら何でも知ってるみたいな気がしてた・・・・。
オレと打ってる時のアイツの真剣な眼差し。
恐らく無意識でやってる、考え事をする時手を口元に当てるクセ。
オレと打って自分が負けても、碁の内容がいいと嬉しそうに頬を紅潮させながら夢中になって検討をする搭矢。

『なんでこんな些細な事まで気になるんだろう?』

ってくらいに搭矢の事は気になったし、気がつけばアイツを目で追っていたあの頃。

『オレってもしかしてゲイ?』

なんて一時マジで悩んだほど、頭ん中はアイツで一杯だった。
でも、あの時のインタビューで突きつけられた「搭矢アキラには好きな娘がいる」という事実。
オレはあの時、芽生え始めていた搭矢に対する想いを封印した・・・・・・・・。


そして、今の搭矢はわからない。
オレの知らない別の顔を持ってるんだ。
そりゃそうだよな、こんな歳にもなればばお互い私生活の幅だって広がってくる。
オレだってやりたい放題の生活送ってきてるし、搭矢に色恋のひとつやふたつあったっておかしくはないさ。
なんて考えたら胸にもやもやがどんどん広がってきた。


『進藤クン、また失恋しちゃったねドンマイ★パーティー』(なんつーネーミング)
は渋谷の洋風居酒屋で主賓のオレ、和谷、伊角さん、本田、奈瀬、いやいやながらの越智、・・・・といつものメンバーで始まった。

『またまた彼女に振られちゃった進藤に乾杯〜♪』

『がっくし!それ、やめてくれよなぁ〜〜思いっきし脱力なんスけど?!』

『進藤は女の子をなめすぎてんじゃないのぉ?ちょっとルックスがいいからって女の子がほいほいついてくるのにいい気になり過ぎてると思う!女の子はねえ付き合い始めたら自分を見てて欲しいもんなのよ!ねえ!分かってるぅ?!進藤ぉ!ちゃんと優しくしなくちゃダメなのよっ!』

『あー?!オマエ・・・何飲んでンのかと思ったらラム酒かよ?!最初っから飛ばすなよなぁーー。』

『し・ん・ど・う!ちゃんと聞いてる?!』

『はいはい、聞いてますってば、オマエさあ最近彼氏と上手く行ってないの?』

『きーーーっ!振られ小僧のあんたに言われたくないー!』

『だぁぁーーーっ・・・こりゃダメだ!おれちょっとトイレ・・・』



はーーー参った参った・・奈瀬の奴酒が入るとうるせぇ、うるせえ!・・・・・・ってあれ?
店の奥まった個室風になってるテーブルで向かい合って飲んでるカップルの女の方・・・・・あれって確か搭矢の彼女じゃねえか?多分そうだよ・・・うん。
なんでこんな居酒屋なんかにいるんだよ・・・ってか相手は搭矢じゃない!
どうみてもオレより年上だよなあ、相手の男。

どうなってんだよ?!
って思ったら彼女とバッチリ目が合ってしまった。
すると彼女はオレに向かってにっこりと微笑んだ。


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