night passes過ぎ行く夜に・・・・(by:新城ゆきの)



夜景

搭矢《2》




『オマエこれから何か予定ある?』

『ん?今日はこの後特に用事は無いが、この間言ったヤケ碁か?付き合うぞ。』

『ん〜〜〜それもソソるけどたまには、メシでも喰いにいかねえ?いい店知ってんだ。』

『いいよ。じゃこの書類を事務所に届けてくるから待っててくれるか?』

『うん。オレ今日車だからさ、オマエ今日は車?』

『いや、電車だ。』

『そりゃ丁度良かった。んじゃ駐車場で待ってるよ。』



手合いも終わってさあ帰ろう、という時進藤にいきなり呼び止められた。
なんだろう?
この間のボクの彼女のことでも聞かれるんだろうか?
事務所に書類を提出して、あれこれ考えつつも進藤の待つ駐車場へ向かいながらボクは胸の鼓動が
高まっていくのをいやというほど感じていた。


『済まない、待たせたな。』


進藤は車に寄りかかるようにして煙草を吸っているところだった。


『いや、オレも丁度一服出来たし・・・んじゃ乗れよ。』


ボクは助手席に乗り込んだ。
座席シートの位置がまだ彼女サイズになったままだ・・・・


そのままでは狭いシートの位置をズッと後ろへ移動させる。
進藤はその一連のボクの動作をチラッと見たけど何も言わず、車を静かに発進させた。
帰宅ラッシュが始まる前の夕暮れ時の街並みがスイスイ後ろへと流れて行く。
意外にも進藤は運転が上手い。
ムリな急発進や急停止をしないのはもちろんのこと、信号で停止する時などもとてもソフトにブレーキを
踏んでいる。


『運転中はさ、信号機2つ先まで視野に入れてて徐々にブレーキを踏むんだよ。運転手はハンドルがあるから
急ブレーキ踏んだってだいじょぶだけど、他の席はそうはいかないじゃん?教習所の教官が結構ウルサイ奴で
さ〜・・・・助手席に彼女を乗っけるんだったら常に優しい運転を心がけろ!ってそりゃもう何度も言われたぜ!』

『ふふふ・・・それは役に立ったか?』

『いんや、全然!!』

『あははは・・・・・・』


笑いながらチラっと進藤の横顔を盗み見る。
サングラスをかけ、シートにゆったり座って運転しているキミは知らない人みたいだ。


『何を食べに行くんだ?進藤。』

『うん、オマエ肉大丈夫だったよな?スペアリブの美味い店があんだよ。こっから20分くらいかな?そこへ
行こうと思ってんだけど、いい?』

『キミに任せる。ここんとこお付き合いで和食ばっかりだったから嬉しいよ。』

『よっしゃ、では参りましょう。』


ついこの間まではこの時間ならばまだ明るかった外がもうすでに暗くなり始めていて、街並みの灯りが綺麗に
色づき始めていた。
「まるでデートみたいだな」
なんてばかな事を考えてみる。
九段下を抜けて皇居近くにあるそのお店は海外のチェーン店だそうで、店内はアメリカンテイスト溢れる装飾
で一杯だった。


『良かった、まだ早い時間だったから空いてるぜ。いつもは混んでてさ〜、並ぶんだよここの店。』

『ふぅーん・・・キミはこういった店によく来るのか。ボクじゃ絶対来そうもない店だな。』

『あっ、まずかった?こういう店?』

『いや?そういう意味じゃなくって、この手のお店の情報は流石に搭矢門下のメンバーからは入ってこないな
って思って。』

『それもそうだなー、緒方さんはまずこんな店来ないだろうし芦原さんもなぁ〜知らねぇだろうな!』


ちょっと灯りを落とした店内は結構いい感じだ。


『さぁーーてと!何喰う?、まずお勧めはやっぱコレ、スペアリブだな。オレもう腹減っちゃってさーー。
サラダも美味いぜー。あとこのオニオンフライがまた絶品でさあ・・・・』

・・・・・としゃべりつつもウェイターを呼び、メニューを指差しながら進藤はあれこれどんどんとオーダー
していく。


『オマエ、サラダのドレッシングは?海鮮だからイタリアンでいいか?』

『うん、今日はキミに任せるよ。』

『え?・・う、うん。じゃとりあえずこんなもんだな。』

『今日は車だからビールは一杯だけな♪』

『おい!進藤!!飲むのかっ?!』

『いいじゃーん、このメニューでアルコール抜きは辛いのよ。彼女に振られちゃったけど、ここんとこオレ手
合いでも頑張ってるし、な?な?一杯だけ。』


進藤は甘えるのが(?)上手だ!
あの緒方さんでさえ、「緒方さーん、ちょっとだけー・・・・いいでしょ?」なんて進藤から言われるとまん
ざらでもないらしく、しょうがないな!とかいいながらも進藤の頼みを聞いてたりする。
ましてやこんな大きな瞳で正面からじっと見つめられてお願いされると・・・・・。


『仕方ないな、一杯だけだぞ?!』

『サンキュ♪搭矢。帰り、安全運転すっからさ。』

『頼むぞ、ボクはまだ死にたくはないからな。』

『そりゃオレも同じだよ!だってまだ神の一手を極めてないもん。』

『今のキミからその言葉を聞くと神の一手のありがたみも薄れるな。』

『ひでぇ!』

『お待たせしました。オニオンリングです。』

『わーー来た来た!』

『これは・・・大きいな?!寄せ集めて揚げたのか?一体どうやって食べるんだ?』


小さな食パンの塊りくらいはあろうかと思われる長方形をしたそれを、ボクはフォークでつついた。


『あーー搭矢、オレがやるって。ザックリと切っちゃった方がイイんだよ。』


手早くナイフとフォークを使ってさくさくその塊りを切り分け、ボクのお皿に盛り分けてくれる。


『このタレつけると美味いんだぜ?!塩だけでもまたイイけどなー。美味っ♪ほら搭矢、肉も食えよ。おまえ
ちょっと最近痩せたんじゃないか?』


さっきっから進藤は料理が運ばれてくる度にまめにそれらを取り分けてくれる。
こんな風に世話をされたらどんな女の子だって気分はいいだろうな。


『キミって・・・一人っ子の割りには面倒見がいいよね?』

『ああ?んーまあな。オレって結構人の世話焼くの好き。』

『そっか・・・・ボクは自分の事でいっぱいいっぱいで人の世話までなんて気が回らないな。』

『そっかぁ?でも、んなコト言いながらオマエちゃんと彼女いるじゃん。結婚・・・・すんのか?今付き合っ
てるあの娘と?』


真っ直ぐにボクを見据えて問い掛けてくる進藤の瞳にいつまでもボクだけを映していて欲しい、なんて
思ってしまう浅ましい自分。


『さあ?』

『え?』

『わからない。どうだろう?』

『何だよ?それ?!だってオマエそもそもお見合いだろ?それって結婚前提って事なんじゃないのか?』

『・・・・・・・・お見合いは・・・お断りしたんだよ、進藤。』


一息おいてから答えたボクを進藤が驚きの目で見ている。


『始めそのお話があった時は丁重にお断りしたんだ、ボクは。だけどその話を受けてしまった方がどうも面子
が立たないとかなんとか食い下がられてしまって。仕方が無いからボクは当分結婚などするつもりはないがそ
れを承知でなら・・・とまあ、こんな感じかな?』

『でも現にオマエ今その娘と付き合ってるんだろ?』

『付き合ってる、と言えるのかどうか・・・。色々彼女の相談に乗ったりはしているけど。大人の付き合いだ
よ、進藤。キミと一緒・・・かな?』

と言ってからじっと進藤を見つめた。

『オマエからそんな言葉を聞くとは思わなかったぜ、今日は目からウロコな日だな。』

それから進藤はその話題に触れる事は無く、今日の手合いの話や芸能人のたわいもない話で終始した。










『あーーーーもう、オレ腹いっぱい!満足♪人間美味いモン喰った後って幸せな気持ちになるよな〜』

『なかなか美味しいお店だったね、雰囲気も良かったし。』

会計を済ませてボクたちは外へ出た。
駐車場へは、公園の脇を通ってちょっと距離がある。
秋も深まってきて、さすがにこの時間ともなると空気が冷えていてボクはわずかに身震いをした。

『寒い?搭矢?』

『いや、店の中が暖かかったからだよ。大丈夫だ。』


進藤と肩を並べて公園沿いを歩く。
さっきまではあんなにお喋りをしていたのに、今はお互い無言で。
本当は進藤に言いたい事があるのに・・・言い出せない。
もどかしい。
しばらくこのまま歩き続けたい、キミと。
そんな事をつらつらと考えていたら駐車場に着いてしまった。


『オマエのマンションまで送るよ。』

『ああ、ありがとう。』


車はまた夜も更けた街の中に走りこんで行く。
ネオンに彩られた街並みが次々と後ろへと流れていって・・・。
いつも電車の中から見ているのと同じような景色なのに、なんで今晩の街の夜景はこんなにも胸に染みてくる
んだろう。
窓に頬杖をつきながら外を見ていたら急に切ない想いがこみ上げてきて・・・・・
「あ、いけない。」
と思った時はすでに遅く、涙が一筋零れてしまった。
運転している進藤に気付かれないように、そっとさりげなくそれを拭った。




『搭矢?』

『ん?』

気がつけばボクのうちの近所の公園まで来ている所で、進藤は車を停めてボクに話しかけてきた。

『オマエ・・さっきもしかして泣いてた?』

『え?!』

と答えた瞬間進藤はボクの右腕をグッと掴んで自分に引き寄せた。
急なことで思わず進藤の方に倒れこんでしまう。


『なっ・・?!』

驚いて見上げたら進藤の顔がボクの間近にあって、あっという間に唇を塞がれていた。
驚きで反射的に身体が強張る。
優しく触れるだけのキス。
暖かい。

拒絶を示さなかったからか進藤は合わせた唇を一層強く押し付けてきて離し、角度を変えてまた口付けて
くる。あっと思ったときにはカレの舌がボクの口内に入り込んできた。
はじめはそっと、でもそのうち歯列をなぞられ上顎をなぞられてそしてボクの舌に絡み付いてくる。

頭の芯が痺れそうだ。

戸惑っているボクの舌を誘い出し絡めとリ強く吸う。
身体の力が段々抜けて行って崩れそうになるのを進藤がボクの背に腕を回してがっしりと支えた。
そして進藤は運転席からこちら側に乗り越えてボクに覆いかぶさってきて尚もキスを続ける。


『ん・・・・・ふっ・・・・しんどっ・・・』

『とーや・・・・オレ・・・オレお前が好き。もう我慢出来ねぇ。』


切羽詰って余裕の無い進藤の顔がすぐ目の前にあった。
いつからキミはこんな大人っぽい表情をするようになったんだろう?
そんなキミからボクは目が離せなくて、じっと見つめ返したらまた荒々しく口付けてきた。
進藤の舌がボクの口内をくまなく荒らす。
そしてそれに応える自分。
もうどうにかなりそうだった。
身体の奥に熱い火が灯るのを感じる。


『あっ・・・・・』


首筋をきつく吸われて思わず声が漏れる。
車内には二人の荒い息遣いだけが響いて・・・・
気がついたらシートは倒され進藤の熱い手がボクの身体の上をなぞっていた。



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