別れ・11


それから程なくして、棋院広報部から進藤の結婚が発表された。

和谷以外誰も知らされてなかったので、イキナリの発表は当然波紋を呼び…
しかも式も挙げないとなると、当然良くない噂をまくしたてる輩が出てくるのは仕方がなかった。

「進藤君、結婚したんだってねえ、おめでとう」

「あ、はい。ありがとうございます」

年配の棋士が進藤に声を掛ける。
以前からあまり進藤の事をよく思ってない棋士だった。


「式は挙げなかったんだって?新婚旅行も無しかい?」

「はあ、色々と立て込んでいるもんですから…」

「ふぅ〜ん、それはやっぱり、みんなも噂してるけどできちゃった婚だったからなのかね?」

進藤の顔色がさっと変わる。
周りにいた棋士たちもぎょっとしてふたりに視線が集まる。


「まあ…そういう事です」

「キミは始めの頃の手合いサボリの件といい、今回の件といいマイナスな話題を提供するのが多いようだね。あ、失敬!ご結婚はマイナスな話題じゃあなかったね。でもね、たまにはもっとこう…いい話題で世間を賑わしたらどうなんだい?」


そのやり取りを近くで見ていた和谷がかっとなり、中に割って入ろうとするのを寸での所で伊角が制止する。


「和谷、オマエが割り込んでどうする!よけい拗れるだけだぞ」

「伊角さん!だって、だってもうオレ我慢出来ないよ。ここんとこ毎日毎日進藤の奴色んな棋士から嫌味を言われ続けてるんだぜ!」

「ああ、知ってるよ。でもな進藤を見てみろよ、冷静だろ?」

以前の進藤だったら、和谷の様にカッとなってこの段階でケンカになっていただろう。
目の前の進藤は、相手の棋士から目を逸らさず冷静に受け答えしていた。


「これからは精一杯精進していきたいと思ってますので、どうかご指導のほどよろしくお願いします」


と進藤は静かに言い相手の棋士に向かって深々とお辞儀をした。
これには年配棋士はぐうの音も出なかった。



                                                     2005年10月19日

 

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