別れ・12


「変わったな、進藤」


「ああ・・・・でもなんかオレ寂しいよ、伊角さん。前のやんちゃな進藤のがオレ好きだった」


「仕方がないさ、もう進藤は家庭を持ってしまったんだから。一児の父になる訳だし、いつまでもおちゃらけている訳にもいかないだろ?」

(違うんだよ・・・伊角さん。アイツがああなったのはそんな理由からじゃないんだ!)


そんな進藤の姿を見ていて、和谷は胸が詰まる思いだった・・・・。
確かにあれから進藤は、妙に落ち着いてきた。
浮ついた言動が無くなり一時期乱れていた成績も今ではすっかり持ち直して、連勝街道驀進中だ。
けれど・・・・・進藤が勝てば勝つほど和谷の心中は複雑だった。
負けるよりは勝つ方がイイに決まっている。

(だけど勝っても進藤はちっとも嬉しそうじゃないんだ)

以前なら勝った後ワイワイ言いながら仲間たちと騒いだり、とにかく喜びを身体で表現していたような奴だった。今では、検討を終えてから静かに退室してそのまま帰宅してしまう。院生仲間たちと一緒に飲みに行く、ということも無くなっていた。
どうやら進藤は酒を断っているようだった。
棋院の催しものに参加した進藤が酒を断り倒していたあたりから、噂が流れていた。
口さがない連中はそのことについても

「可愛い奥様の安産祈願の願掛けでもしてるんじゃないのか?」

なんて言ったりしているのを苦虫を潰すように和谷は聞いていた。
(このことは塔矢の耳にも当然入っているんだろうな)

「全くどいつもこいつも!どうして上手くいかないんだよっ!」

和谷はひとり壁を拳で叩いた。


一時期体調を崩した塔矢はあれから持ち直し、それからは持ち前の粘りと強気な攻めで棋聖リーグ戦を突破。兄弟子である緒方棋聖への史上最年少挑戦者となった。





そして初冬・・・・・進藤に子供が生まれた。
男の子だった。



                                                  2005年10月20日

 

小説に戻る