別れ・16


「塔矢、オレ煙草吸いたくなったから外出てくるよ。」


進藤が人差し指と中指を口の前に持って行き、煙草を吸う仕草をして見せた。
暫らくぶりに見る進藤の顔は以前よりも、アゴのラインが削げ落ち雰囲気が大人っぽくなっている。
一緒に暮らしていた頃に比べ、ずっと落ち着きを見せる進藤にアキラは別れてからの年月の長さを見せ付けられたような気がした。
そしてそんな進藤の些細な仕草にドキリとしてしまい、顔が熱くなるのをどうすることも出来なかった。

何気ない進藤の男臭い仕草に、いちいち胸の動悸が高まってしまう自分が情けなく感じる。


「確か前夜祭始まるの6時だったよな?煙草吸ったらそっから会場に直で行くわ、オレ。
下の大広間だろ?ちゃんと間に合うように行くから心配しないで」

「うん、わかった」


部屋のドアの閉まった音が聞こえ、進藤の気配がこの部屋からいなくなって初めて、塔矢はイスに深く座り直して大きく息を吐いた。
(身体ががちがちだ)
無意識に緊張してたんだろう。


ちゃんと普通に話せてただろうか?僕は。
声は震えていなかっただろうか。
顔が強張っていたりしていなかっただろうか?
つまらない事ばかりが気になってきて仕方が無い。

「僕といた頃は、進藤は煙草なんか吸わなかったのに」
(それは僕と別れたから?)

「は!何を都合のいい事を考えてるんだ、僕は!」


額に手を当て頭を振る。
もう彼には奥さんも子供もいる。
ちゃんと家庭を築いて、一家の主として家族を守り日々前を向いて進んでいる進藤。
そして、今だ彼への想いを吹っ切れずにいる自分・・・・。


「よりによって何で代役が進藤だったんだ?!」


今更言っても始まらないことだったがそう思わずにはいられなかった。 


そして6時。
前夜祭が始まりレセプションとして設けられた進藤と塔矢の対決は塔矢の一目半勝ちで終わった。

各国の選手たちを交えてのパーティーも盛況のうちに終わり、日本の代表委員として参加した塔矢と進藤も無事大役を終えたとほっと一息つき、部屋に戻った。


「塔矢、明日の予定は?」

「うん、明日は特別することも無いな、大会の運営はスタッフの方々がやってくれるから。
大会を見たければ見て行って下さいと言われているからちょっと見て帰ろうかな、と思っている。あとは5日後の閉会式に出るだけかな」

「そっか、オレは閉会式には出られないし明日の午後予定入っちゃってるから明日の朝帰るわ」

「そうか・・・・・」

(帰るのか)
ほっとすると同時に寂しさを感じるアキラだった。



                                                  2005年10月26日

 

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