| 「塔矢。風呂は?」 「うん、折角だからここの温泉に入ってくるよ」 「そっか、オレは疲れちゃったから部屋風呂でよしにしとくわ」 ここは有名な温泉地。 進藤は大の温泉好きだったが、さすがに塔矢と鉢合わせするのだけは避けたかった。 「そう?じゃ行ってくるよ」 「ここの部屋のカード持ってけ。オレはもうこっから出ないから」 「うん」 塔矢も進藤の温泉好きは承知していたが、ここは彼の気持ちを汲むことにする。 カードキーを進藤から受け取り、塔矢はひとり温泉に向かった。 「進藤と温泉に来て風呂に別々に入るなんて初めてだな」 などとつまらない事を考えてしまう。 流石に名の通った温泉地だけあっていい風呂だった。 もしかして海外の選手たちもいるのでは?と思ったがやはり生活習慣の違いだろう。 外国人と思われる人はおらず中もかなり空いていたので、塔矢は他人の目を気にせずゆっくりと手足を伸ばして湯を楽しむ事が出来た。 以前なら、周りの目が無くなると湯船の中ですぐにいたずらを仕掛けて来た進藤に本気で腹を立てていたアキラだったが、今となってはそれさえも懐かしく思えてしまう。 もうあの身体に触れることが出来ないのかと思うと、切ない想いがこみ上げてくる。 部屋に戻ると、進藤は浴衣ではなくスウェットにTシャツ姿で窓の外をじっと眺めていた。 (相変わらず変わってないんだ) とその姿を見てつい微笑んでしまう。 浴衣だと朝起きた時着崩れていてほとんど前がはだけた状態になってしまうのを嫌う進藤は、いつも旅行の時はジャージかスウェット持参だった。 「お帰り、どうだった温泉は?」 「うん、とてもいいお風呂だったよ。人があまりいなくてのんびり出来た」 「そっか、良かったな・・・・・」 そう言うとまた窓の外に目をやる。 そんな進藤の後ろ姿を見て、塔矢の中で何かが音を立てて切れた。 「とっ・・・塔矢?!」 「ごめん進藤。やっぱり僕は・・我慢出来ない」 後ろから進藤をふわりと抱きしめながら呟く塔矢の息が進藤の首筋にあたり、進藤の身体は硬直する。 「今夜だけでいいから・・・・家族のことは忘れて僕と・・・・」 身体を固くしている進藤を更にぎゅっと抱きしめ、振り絞るような声で塔矢は呟いた。 「だめだよ、塔矢。そんなことしたらオレ・・・・オレもうオマエのこと離せなくなる!」 「進藤・・・・頼む。こうでもしないと僕は・・・僕は前に進むことが出来ない。区切りをつけさせてくれ、進藤・・・・」 「塔矢・・・・・っ」 2005年10月28日 |
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