別れ1(アキラside)


「別れよう」


息苦しい沈黙を破り切り出したのはボクの方からだった…。
大きく見開かれたキミの瞳がみるみる潤んでいくのを見ながら
「ああ…彼の涙を見るのは北斗杯以来だろうか?」
なんて頭の片隅で冷静に考えているボクがいた・・・・・・・・・。





「話したい事があるんだ、塔矢」

彼からこう切り出された時イヤな予感がした。
来るべき時が来たんだろうか?と。
彼はこのところ帰りも遅く、ボクといても心ここにあらず、と言ったことがもう一ヵ月近く続いていた。
身体を重ねることも、もうここ一ヶ月全然無い。
そんなことは一緒に暮らし始めてからこっち、初めてのことだったから・・・・だからもしかしたらそうなんじゃないか、と…。


「話なんか聞きたくない」

と耳をふさいでしまいたかった。

「もしかしたらボクを驚かせる為の大がかりな冗談なのかも知れない」

なんて思い込もうともしてみた。
でもそれは彼の目を見て有り得ない事なんだと改めて思い知らされただけだった。


「妊娠したって・・・・」

「え?」

「子供が出来たって言われて、オレ!」


俯きながらひざに乗せた拳をぎゅっと握り締めるキミ。
なぜ?誰の事を言ってる?
だって…彼の心が他人へと動いた様子は無かった、
ボクが知る限り。
キミはあれほどボクに・・・・・そしてボクの身体に執着してて、夜ともなればひどい時は朝まで寝かせてもらえなかった事もある。
あれだけのインターバルで、あれだけ回数身体を重ねてて他の女に手を出そうと思わせる程、ボクは彼をないがしろにしたつもりは無かったし、ともすれば果てしのない彼の欲求に自分なりに応えて来たつもりだった。
そういった面では密かに自信を抱いてさえいた。はずだった…。
ほんの今の今までは。

「なん・・・で?いつから…」

「いつからも何もあの晩一回っきりなんだよ、くそっ」

バン!と進藤が目の前のテーブルを両手で叩いてそのまま前のめりに突っ伏す。


もしかして・・・・、思い当たる時があった。
あれは和谷君達と飲みに行く、と言って出掛けて朝帰りした日のことだろう。
飲んでる途中で一度ボクに「適当なとこで抜けるから待ってて」とメールを送ってよこした進藤はとうとうその日帰らなかった。
そして朝目が覚めたらボクの隣で眠っていたんだったっけね。
服を床の上にあちこち散らばしたままだったからやれやれ、と思いつつ拾い上げた彼の上着からは、ふわりと香水が香ってきて。
そして衿元には自己の存在を主張するかの様にファンデーションがうっすらと付けられていた。
そう、付いていた、んじゃなくってあれは多分意識的に付けられたものだ、とボクは直感した。
あの時か…。


                                                      2005年10月9日



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