別れ−3(進藤side)


「私・・・妊娠しちゃったんです」



ある日いきなり呼び出されて開口一番に言われた言葉がこれだった。
オレは足元が崩れ落ちるような気持ちに襲われた・・・・・・・


彼女は前からオレに色々とアプローチしてきていた娘だった。
始めはオレもただの一ファンとして接していたんだけど、度々棋院に足を運んできては
下で待ち伏せてたりするようになって少々オレは参ってた。


「進藤さん、私進藤さんの事が好きです」

「ああ、ゴメンな。オレ付き合ってる奴いるから」


その日も彼女は棋院の外でオレの事を待ち伏せていた。
雑誌のインタビューなんかではもちろん自分はまだフリーであると答えていたけど、
こういう娘にはハッキリと付き合ってるやつがいると告げた方がいい。


「知ってます。塔矢さんでしょう?」

「はぁ?何言ってんの?アンタ?」

「進藤さんと塔矢さん、一緒に暮らしてますよね?」

「あーー、それはオレの仲間だったら皆が知ってる事だよ。アイツは単にルームメイトなの!」

「それは表向き・・でしょ?私見ちゃったんです」

「何を〜?」

「進藤さんと塔矢さんが駐車場でキスしてるところ・・・・・」


しらばっくれようと思えば出来たのかも知れない。
誰かと見間違えてるんじゃないか?とか証拠はあるのか?とか。
だけどその時はあまりの驚きで固まってしまい、笑い飛ばす事すら出来なかった。


「アンタがどう思おうとそれは勝手だ。だけどこれだけは言える。
オレは今棋戦を控えててお付き合いどうこうなんていう気はこれっぽっちもないって事」


そう言い放つのが精一杯でオレはそのまま足早に家に向かった。


「気をつけよう」


あの時あれほど肝に銘じたはずだったのに!
和谷に声を掛けられて行った飲み会は行ってみれば事実上のコンパだった。


「コンパじゃないか?和谷!オレ帰る!」

「進藤〜!ゴメン。頭数揃えたかったんだよ。それにオマエってば
女受けがイイからさ・・・・スマン」

「はーーーしょうがねえな。このこと塔矢に言ったら承知しねぇぞ!
アイツには今日のことはただの飲み会って言ってあるんだからな!全くもー」

「わかってるって。オレだって塔矢に殺されたくはないさ」

「おいおい、塔矢を鬼扱いすんじゃねーよ!ああ見えても優しいんだぜ」

「それはオマエ限定だろ?進藤!こんなとこでノロケてんじゃねー
よっ!あったまくんなあ」

「えへへ・・・・・」


塔矢とオレの関係はひょんなことから和谷の知るところとなり、和谷だけには経緯を打ち明けていた。
始めはウソだろ?!と驚きオレと塔矢を非難して暫らくは絶縁状態が続いた・・・・・
でも日が経つうちにだんだん理解を示してくれたのか、和谷がある日こう言って来たんだ。

「オレ未だにオマエらの事、信じられないんだけど。まあ・・・でも何となくわかる気がする。
オマエらって最初っからお互いが特別だったもんなあ。バリバリに意識し合ってたし。
それがこういう方へ向いてしまうってのもアリなんかな」




それまで塔矢とのことを誰にも話すことも出来ず、オレとしてはあんな凄い恋人を
いつか誰かに自慢したくってうずうず悶々としてたから、そんなオレに和谷は格好の犠牲者だった。
あれこれ日々散々ノロケまくった。


「やだーーー!そんな話聞きたくもないぃぃぃ〜!ヤメろ進藤ーーっ☆」


と言う和谷の襟首ひっ捕まえてはノロケ倒してスッキリしたもんだった。
ただこのことは塔矢にはナイショだ。
アイツが知ったらそれこそ大変だったろう。
実家に戻る!とか言いかねないしなあ。

そんなことがあったからこそ、その日は日頃の和谷への感謝の気持ちを込めて
「仕方ない」と飲み会に参加することにした。
メンバーは男女合わせて10名ちょっと。

そして・・・・そのメンバーの中にあの彼女がいたんだ。

                                      2005年10月11日

 

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