別れ−4(進藤side)
| 「和谷、オレ一次会で抜けるぞ!」 と和谷に宣言して彼女から一番遠い席を選び塔矢にメールを打った。 「適当なところで抜けて帰るから待ってて」 9時も大きく回って一次会がお開きになった。 さて次はどこへ行こうか?と店の外で輪になってガヤガヤやってる連中に 「じゃオレはこれで!」 とさっくり声を掛けて 「えぇーーうそぉ〜進藤さん、帰っちゃうのぉ?」 という女の子たちの声を背にオレは足早にそこを離れ駅へと向かった。 駅の近くの繁華街に差し掛かった時だった。 「進藤さん」 「来た」と思った。 いいや知らん顔して帰ってしまおう、そう思った時・・・ 「ごめんなさい!先日は失礼なことを言ってしまって。反省してます」 後ろから大きな声。 おいおい・・・・こんなところでカンベンしてくれよ。 「ちょっ・・ちょっと。やめてくれよこんなとこで」 振り返りざまに言いつつ彼女を見るとなんとぼろぼろと涙を零している。 参ったな。 道行く人は何オンナ泣かせてんだよ、ってな顔して通り過ぎて行くしこのままほったらかして帰る訳にも 行かないしでひとまず近くの店に入ることにする。。 ここら辺は飲み屋ばっかりで喫茶店が無かったから洋風の飲み屋に俺たちは入った。 ちょっと予定してた時間より帰宅が遅れるけど仕方ない・・・・・ どうやら反省しているみたいだし、これからのこともあるからキッチリとクギを差しておかないと・・・ そんな気持ちからだった。 話してみるとそんなに思っていたほど悪い娘ではなかった。 女子大生で最初は囲碁なんかにまるで興味なんか無くて。 でも友達に塔矢のファンがいて、それに付き合っているうちに自分の方が夢中になってしまって 今に至るのだとぽつぽつと語った。 ただ先日のことは流石に自分もいけない事をしたと猛反省したんだと・・・・ そしてオレのことはキッパリと諦める、とさばさばとした顔で語った。 この娘が諦めた、と言った安心感からだったのかも知れない。 目の前の人物を「要注意人物扱い」していた後ろめたさからだったのかも知れない。 最後くらいは優しくしてやろう、なんてイイカッコをしようとした自分の甘さが全ての元凶だった。 適当なところでさっさと切り上げれば良かったものを、彼女は囲碁を習い始めたらしく、またオレたちの棋戦についても詳しかったのでいつしか話が弾んでしまい、つい酒が進んでしまった。 自分ではそれほど飲んだつもりはなかった。 会計を済ませて店を出たあたりまでは覚えている。 「家に着いたぞ、進藤」 そんな声が聞こえた気がした。 「服脱がせてーーー」 とか言ったかも知れない。 記憶はそこで途絶えていた。 そして目が覚めたら・・・・・・・・横に彼女が眠っていたんだ。 何も身につけずに。 そこはあの繁華街の流れの中にあるホテルの一室だった。 何も無かった・・・と言える状況でなかったのは自分の身体を見ればわかる。 二日酔いで痛む頭を振り絞って昨夜のことを思い出そうとしてみると、ところどころ断片的に自分がしてしまった事が浮かんできた。 酒の上での事とは言え大変なことをしてしまった、と彼女には床に頭をこすりつけ謝った。 しかし彼女も「自分も酔ってたし」と言い、またそれきりという約束で別れた。 もう会わない、と。 そのはずだった。 その時は避妊したかどうかなんてまで思い至らなかった。 まさか妊娠するなんて。 「医者には行ったのか?」 「はい、今2ヶ月に入ったところだって・・・・どうしよう!私っ」 涙ぐみながら彼女が産婦人科のカードを出して見せる。 「に・・2ヶ月・・・。それで・・・・・産む・・・・つもり?」 「堕ろせ・・・って・・・・進藤さん?」 「い、いや!だってキミまだ大学生だし・・・・これからのこともあるじゃないか」 「学校は休めばいいことだけど。それにもう、このことはお母さんも知ってるの・・・・・だから・・・」 彼女もこの事態に頭がいっぱいいっぱいになってるらしく、後は言葉にならない。 そりゃそうだろう、この歳でまだ学生気分でいたところに急に妊娠だなんて彼女だって相当ショックなはずだ。 もう後戻りは出来なかった。 それから・・・・オレは塔矢の待つ家に帰るのも心苦しくなって、でも帰らないわけにも行かない。 家に帰りアイツと一緒に夕飯を食って風呂に入って・・・・・ まともにアイツの目を見ることが出来なかった。 話しかけられても上の空で、塔矢も流石におかしいと気がついていただろうにアイツは何も聞いては来なかった。 当然夜もずっと別々の部屋で寝た。 「疲れた」とか「頼まれた原稿がある」だとか言い繕って。 今のオレにはアイツを抱く資格なんてない。 一緒に暮らしたこの2年間。 アイツはオレに沢山の愛情を注いでくれた。 もちろん、オレだってそうだ。 ずっと自分の片思いだと信じてたこの想いが実は両思いだったとわかった時に誓った。 オレは絶対にアイツを大切にする。 そんでこの、世間から見れば不自然な関係に引け目なんか感じさせない程にそんな世間に目を向けてらんねぇくらいオレに目を向けさせててやるって。 そしてこの関係はこれからもずっと永遠に続くものだと思ってたのに。 塔矢は少しずつ時間を作っては自分の荷物を実家へと運んでいた。 それはいつもオレが居ない時間帯を見計らってのことだった。 あの告白の翌日から塔矢はうちで寝泊りすることも無く、そして一週間もして・・・・ アイツの荷物はキレイさっぱりと無くなった。 その日帰宅して部屋を覗いたら、最後まで置かれてた碁盤が無くなってた。 住む主を失ってガランとした部屋。 「塔矢・・・・・・とうや・・・っ」 オレは膝を折ってその場に崩れ、声も出さずに泣いた。 そして翌日彼女の家に行き挨拶をし、自分の親に報告したりで慌しい日々が続いた。 棋院で塔矢とすれ違ったりすることがあったけど、お互い目も合わせず言葉も交わさずだったりしたから スルドイ和谷あたりはもう何か感づいているかも知れなかった。 2005年10月12日 |