別れ・9(塔矢side)


「知らなかったのか?んーそうだよな、アイツまだ誰にも言ってないみたいだし式も挙げないって言うし・・・・家もあそこを引き払って新しくマンションを買うみたいだぜ」

「そうなんだ・・・・・」

良かった、と思った。
ボクたちが暮らしたあの場所に他人を入れるなんて、とても我慢が出来なかったから。

「なあ、塔矢にしろ進藤にしろ今おまえらが凄く辛い状況だというのは良くわかる。こんな時にメシなんか食う気にならないってのもな。だけどな塔矢、ふたりして青いツラ下げてよろよろしててみ?しかもお互い口も聞かなくなっててさぁ。目立つんだよ、オマエら」

「うん・・・・」

「キツイこと言うようだけどさぁ、お前たちってもう既に棋院内だけじゃなくって囲碁界ん中でも注目されてるわけじゃん?オレが言うのも何なんだけどさ。んでこんな状態が続いてたらそのうち、痛くもない腹を探られちまうってこともあるかもじゃねえ?」


そこまで聞いてボクははっとして、和谷くんの顔を見つめた。


「お前たちってさぁ今までそれなりに周りに知られないように、って気を使ってここまで来たんだろ?それが水の泡だぜ?そうは思わねえか?」


確かに和谷君の言う通りだ。
今まで自分の事しか見えて無くってそこまで考えていなかった。


「だからさ、まずはメシをちゃんと食ってだなーその青っちろい顔を何とかしろ。体調が悪いと人間ロクな事考えないからな、うん。無理して笑えとかそんな事は言わないよ。そんなんムダにストレス溜めるだけだから。だから何か吐き出したいことがあったらオレ聞くからさ。話してみ?な?人に話すだけでかなりスッキリすることってあると思うぜ。ヤケ酒も飲みたいんだったら飲めばいいし・・・・付き合うぞ、オレ」

「ありがとう・・・そんな風に言ってくれて・・・・凄く嬉しい」

「おいおい泣くなよーーーー」


どうやらボクは涙を零していたらしい。
慌てた和谷君がハンカチを出してくれた。


「今までボクたちのことをこんな風に誰かと話す事って無かったから・・・・・気が緩んだみたいだ。でも本当に嬉しいよ・・・・・・・」


「はーーー、やっぱ塔矢、いっぱいいっぱいだったんだなあ。進藤はちょくちょくオレにノロけたり愚痴こぼしたりしてたから、少しはガス抜き出来てたんだろうけど塔矢は誰にも今までそんな話することも無かったんだろう?辛かったな」


ああ、どうして進藤の周りにはこんなに暖かい人ばかりが集まるんだろう?
やはりそれは彼の人徳のなせる業だろう。
いつもプラスのオーラを出している彼の周りにはいつも沢山の人たちが集まる。
今日のことだって、多分進藤が和谷くんに頼んだのには間違いないんだろうけど、そんな面倒な事を、ましてやこんなにまでも真摯にボクのことを考えてくれるなんてなかなか出来ることじゃない。


                                              2005年10月17日

 

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